大正漢和大辞典
大正2年(1913)6月25日刊行
三省堂編輯所編纂/本文2255頁/菊判(縦196mm)
明治36年(1903)刊行の『漢和大字典』が継続販売されているなか、『大正漢和大辞典』は発売元が明誠館書店、著作兼発行者が西沢喜太郎で刊行された。その当時の三省堂は、大正元年10月から経営破綻に陥っていた。そのため、本書は背表紙に「西沢氏発兌」、本扉に「西沢氏蔵版」と出ている。西沢喜太郎は、長野で西沢書店を経営し、明治初期から出版業も営んでいた。
本書の内容は『漢和大字典』を踏襲している。例えば、音や韻が異なっていて字義も異なる場合、同じ親字を載せて区別していること。また、熟語は末の字が親字と同じものを掲載していることである。どちらも他社の漢和辞典には全く見られない特徴だ。
熟語や用例は大幅に増補され、内容の充実が図られた。その一部は『漢和大字典』の修正増補版(大正4年)にも利用されている。「一」の熟語を比較すると、13項目から34項目へと増加した。そのため、熟語の項目は改行がなく、すべての行が追い込みで組まれている。
『漢和大字典』では、字義の説明は大きめの活字、熟語は小さめの活字を使っていた。本書では、その中間的な大きさの活字で統一されている。また、『漢和大字典』では「もッぱら」のように促音に小書きの「ッ」を使っていたが、本書では「つ」である。両書とも、印刷は三省堂印刷部だった。
『漢和大字典』との大きな違いは、篆文や行書・草書を本文ページに掲載したこと。さらに、部首分類を20増やしたことである。例えば、人部からニンベンを独立させたり、7画の辵部をなくして4画のシンニョウに変更したり、4画の犬部からケモノヘンを独立させて3画の部首にするといった、引きやすさのための工夫が加わった。
前付に「部首索引」「総画索引」があるのは『漢和大字典』と同じだが、「弁字」はない。序文もなく、後付の「国訓」「国字」もなくなった。総ページ数が増えてしまったことが原因と思われるものの、『漢和大字典』が修正増補版で付録を増やしたのとは対照的である。
大正4年9月に「株式会社三省堂」が誕生し、11月に『漢和大字典』修正増補版が刊行されたが、その巻末広告に『大正漢和大辞典』は含まれなかった。会社再建中の事情があったとはいえ、自社から刊行できない無念があったのは想像に難くない。
●最終項目
●「猫」の項目
●「犬」の項目
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