三省堂辞書の歩み

第22回 大正漢和大辞典

筆者:
2013年11月13日

大正漢和大辞典

大正2年(1913)6月25日刊行
三省堂編輯所編纂/本文2255頁/菊判(縦196mm)

【大正漢和大辞典】初版(大正2年)

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【本文1ページめ】

明治36年(1903)刊行の『漢和大字典』が継続販売されているなか、『大正漢和大辞典』は発売元が明誠館書店、著作兼発行者が西沢喜太郎で刊行された。その当時の三省堂は、大正元年10月から経営破綻に陥っていた。そのため、本書は背表紙に「西沢氏発兌」、本扉に「西沢氏蔵版」と出ている。西沢喜太郎は、長野で西沢書店を経営し、明治初期から出版業も営んでいた。

本書の内容は『漢和大字典』を踏襲している。例えば、音や韻が異なっていて字義も異なる場合、同じ親字を載せて区別していること。また、熟語は末の字が親字と同じものを掲載していることである。どちらも他社の漢和辞典には全く見られない特徴だ。

熟語や用例は大幅に増補され、内容の充実が図られた。その一部は『漢和大字典』の修正増補版(大正4年)にも利用されている。「一」の熟語を比較すると、13項目から34項目へと増加した。そのため、熟語の項目は改行がなく、すべての行が追い込みで組まれている。

『漢和大字典』では、字義の説明は大きめの活字、熟語は小さめの活字を使っていた。本書では、その中間的な大きさの活字で統一されている。また、『漢和大字典』では「もッぱら」のように促音に小書きの「ッ」を使っていたが、本書では「つ」である。両書とも、印刷は三省堂印刷部だった。

『漢和大字典』との大きな違いは、篆文や行書・草書を本文ページに掲載したこと。さらに、部首分類を20増やしたことである。例えば、人部からニンベンを独立させたり、7画の辵部をなくして4画のシンニョウに変更したり、4画の犬部からケモノヘンを独立させて3画の部首にするといった、引きやすさのための工夫が加わった。

前付に「部首索引」「総画索引」があるのは『漢和大字典』と同じだが、「弁字」はない。序文もなく、後付の「国訓」「国字」もなくなった。総ページ数が増えてしまったことが原因と思われるものの、『漢和大字典』が修正増補版で付録を増やしたのとは対照的である。

大正4年9月に「株式会社三省堂」が誕生し、11月に『漢和大字典』修正増補版が刊行されたが、その巻末広告に『大正漢和大辞典』は含まれなかった。会社再建中の事情があったとはいえ、自社から刊行できない無念があったのは想像に難くない。

●最終項目

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●「猫」の項目

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●「犬」の項目

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筆者プロフィール

境田 稔信 ( さかいだ・としのぶ)

1959年千葉県生まれ。辞書研究家、フリー校正者、日本エディタースクール講師。
共著・共編に『明治期国語辞書大系』(大空社、1997~)、『タイポグラフィの基礎』(誠文堂新光社、2010)がある。

編集部から

2011年11月、三省堂創業130周年を記念し三省堂書店神保町本店にて開催した「三省堂 近代辞書の歴史展」では、たくさんの方からご来場いただきましたこと、企画に関わった側としてお礼申し上げます。期間限定、東京のみの開催でしたので、いらっしゃることができなかった方も多かったのではと思います。また、ご紹介できなかったものもございます。
そこで、このたび、三省堂の辞書の歩みをウェブ上でご覧いただく連載を始めることとしました。
ご執筆は、この方しかいません。
境田稔信さんから、毎月1冊(または1セット)ずつご紹介いただきます。
現在、実物を確認することが難しい資料のため、本文から、最終項目と「猫」「犬」の項目(これらの項目がないものの場合は、適宜別の項目)を引用していただくとともに、ウェブ上で本文を見ることができるものには、できるだけリンクを示すこととしました。辞書の世界をぜひお楽しみください。
毎月第2水曜日の公開を予定しております。