三省堂辞書の歩み

第54回 新撰支那時文辞典

筆者:
2017年9月13日

新撰支那時文辞典

昭和14年(1939)11月20日刊行
長沢規矩也編/本文176頁/三五判(縦146mm)

【新撰支那時文辞典】1版(昭和14年)

【本文1ページめ】

本書は三省堂における最初の中国語辞典である。「時文」とは現代文という意味で、古典漢文を扱った漢和辞典とは違うことを表す。

満州への移民が増える時勢に従い、文部省が昭和14年から中等学校の漢文の教科に「支那時文」を加えたため、中学用の教科書・参考書・辞書が出版されるようになった。それまでに刊行されたのは、大学用や高等学校用のものだった。

本書には現行の教科書から、漢和辞典にない親字や熟語、あっても意味が異なるものや時文でよく使われるものを収録してある。また、中国の辞書や新聞からも補足してある。

配列は『新撰漢和辞典』(昭和12年)に倣い、旧来の部首分類とは違う合理的な方法を採用した。例えば「木」の部首は、上「木・杏・杳・査……」、下「架・柒・染・柴……」、左「杠・村・杖・杜……」、その他「本」、と分けられている。「末」は「一」の部首、「未」は「二」の部首になり、かえって引きにくいおそれもあるが、前付の総画索引で補った。

【新撰支那時文辞典】1版のカバー

親字は約3000字、熟語は約8000語を収録。初版本に貼り紙で隠された項目があり、別の初版本で確かめたところ「偽国  満洲国、正しい国家でない意。」だった。

●最終項目

※「猫」「犬」の項目なし

筆者プロフィール

境田 稔信 ( さかいだ・としのぶ)

1959年千葉県生まれ。辞書研究家、フリー校正者、日本エディタースクール講師。
共著・共編に『明治期国語辞書大系』(大空社、1997~)、『タイポグラフィの基礎』(誠文堂新光社、2010)がある。

編集部から

2011年11月、三省堂創業130周年を記念し三省堂書店神保町本店にて開催した「三省堂 近代辞書の歴史展」では、たくさんの方からご来場いただきましたこと、企画に関わった側としてお礼申し上げます。期間限定、東京のみの開催でしたので、いらっしゃることができなかった方も多かったのではと思います。また、ご紹介できなかったものもございます。
そこで、このたび、三省堂の辞書の歩みをウェブ上でご覧いただく連載を始めることとしました。
ご執筆は、この方しかいません。
境田稔信さんから、毎月1冊(または1セット)ずつご紹介いただきます。
現在、実物を確認することが難しい資料のため、本文から、最終項目と「猫」「犬」の項目(これらの項目がないものの場合は、適宜別の項目)を引用していただくとともに、ウェブ上で本文を見ることができるものには、できるだけリンクを示すこととしました。辞書の世界をぜひお楽しみください。
不定期の水曜日の公開を予定しております。