大分空港からほど近い、大分県杵築市大田地区=旧・西国東郡大田村(にしくにさきぐんおおたむら)の幹線道路には、交通安全を呼びかける方言の看板がおよそ70個も点々と立てられていて、壮観です。
大田村は、長い間、村内で交通死亡事故がなく、その記録を10000日にまで伸ばそうと村を挙げて交通安全に熱心に取り組んでいます。10000日を達成するには実に27年以上の長い年月が必要です(が、残念ながらその記録は、杵築市と合併後の平成18年8月に8275日、22年8か月で途絶えてしまいました)。しかし、今また再挑戦が始まっています。
そんなこともあって、この地域はとりわけ交通安全に対する意識と関心とが高いというわけです。
写真のような方言で標語を書いた看板4個が、最初に立てられたのは1999年だったとのこと。最近は毎年10個増設し、今では、地区内の幹線道路沿いに70個も並んでいます。表と裏には別な文が書いてありますから、実に140ものメッセージがドライバーに安全運転と交通マナーの向上を呼びかけ、無事故・無違反を訴えかけています。
おそらくこれは全国一の分布密度でしょう。
「事故ゼロ一万日を めざしちょる 村じゃきな」「気をつけちょくれ のうなった命は かえらんでえ」「キープレフトを まもっちゆっくり 走っちな」「年寄りが多いいき ぐりっと廻りを 見ちょくれ!」「よそ見するなえ スピードは いいかえ」「シートベルトを ビシッと しちょるかえ」「乗る時ゃ しゃっち飲まんでん よかろうがえ」「車に乗った時ゃ 携帯電話は 罰金でえ!!」、など、多様で多彩なメッセージが書かれています。
共通語訳はついていませんが、その意味あいはほぼ理解できるだろうと思います。
共通語で同じ内容を呼びかける場合に比べると、確かに受ける印象は強いと思われます。
地元の人たちは、身近な方言で語りかけられるので、まるで両親や祖父母など家族から直接注意されているような気分になるでしょうし、よそ(特に県外など遠く)から来て、たまたまこの地域を通りかかっている人たちは、「ン? 何だ? これは……」という意外さと不思議さの入り混じったような気分になるでしょうから、両者にとってそれぞれインパクトがありそうです。
ただし、あまり看板に気をとられて脇見をしたり、この方言はどういう意味だろうと考えすぎたりして、くれぐれも事故だけは起こさないように……。ご用心、ご用心!
【参考】なお、この方言による看板は、地元の『大分合同新聞』のインターネットの動画ニュース(去年2007年6月13日掲載)でも紹介されています。
⇒//www.oitatv.com/chiiki/index.php?id=596
編集部から
皆さんもどこかで見たことがあるであろう、方言の書かれた湯のみ茶碗やのれんや手ぬぐい……。方言もあまり聞かれなくなってきた(と多くの方が思っている)昨今、それらは味のあるもの、懐かしいにおいがするものとして受け取られているのではないでしょうか。
方言みやげやグッズから見えてくる、「地域語の経済と社会」とは。方言研究の第一線でご活躍中の先生方によるリレー連載です。