最近、各地の方言で名前が付けられた公共施設などが増えてきています。
具体例を見ていきましょう。私が知る範囲では、東北地方に特に目立っています。
青森市にある「アウガ(AUGA)」(写真1 平成13年に設置。以下( )内は同様に設置年)は、「会う・うれしい・げんき・あたたかい」のローマ字表記の頭文字をつないだもので、津軽弁の「あうが」〔会おうよ〕の意も含まれています。またこのビルの中には、青森市男女共同参画プラザ「カダール」〔仲間になる、語る〕もあります。
岩手県盛岡市の「プラザおでって」(H13)の「おでって」は〔おいで〕の意ですし、花巻市「なはんプラザ」(H4)の「なはん」は文末に付く〔~ね〕という意味の語から、また久慈市の「おらほーる」(H10) は〔おらほ〕=自分たちのところ+ホールです。
宮城県大河原町の仙南芸術文化センター「えずこホール」(写真2 H8)の「えずこ」は、〔昔の育児用の藁製のかご〕のことで、建物の外観も「えずこ」の形をしています。地域文化創造のゆりかごのような役目を果たせるように……という願いを込めたものです。
福島市の「コラッセふくしま(CORASSE)」(H15)の「コラッセ」は〔おいでください〕の意で、COは英語の接頭辞「ともに、共同で」、ASSEはイタリア語の「軸、基軸」の意にもかけてあるとのことです。
また、北陸の富山県黒部市には国際文化センター「コラーレ(COLARE)」(H7)があり、〔いらっしゃい〕という意味です。
以上挙げた施設は、いずれも主に利用するのは地元の人たちだろうと思われます。
一方、南のほうからも挙げましょう。これは、県外に設置されており、主な利用者として地元以外の人たちを想定しているケースです。
宮崎県が東京の新宿駅南口に開設(H10)しているアンテナショップ(消費者の関心や嗜好がどういうものに向いているのかをいち早く知るために設置する店舗)の名前は「新宿みやざき館KONNE」です。「KONNE」は宮崎の方言「来んね」で、〔(宮崎県に)来ませんか〕という意味。従来どおりの命名法だと「宮崎県物産館」「宮崎県特産品紹介センター」「宮崎県物産観光プラザ」「宮崎県とっておき情報プラザ」……、などといった名前になったところだったでしょうか。
今までに挙げた例にもあったように、方言をローマ字書きにするケースが多いのも近年の傾向で、方言を一見外国語風に表記して、しゃれた感じと、何だろう?と思わせる効果をねらったものです。
こういった方言名の施設が増えている理由としては、《同じ名付けるなら、平凡で陳腐なものよりも、その土地らしさがより強くアピールできて印象に残り、皆により親しまれる名前を付けたい》という意識と欲求が高まってきたことが挙げられるでしょう。
今後、どの地域で、どういう個性的なネーミングが登場するのか、楽しみです。
【参考】さらに詳しくは、各施設のホームページなどをご覧ください。
また、日高貢一郎「方言によるネーミング」(明治書院『日本語学』、平成17年10月号)には、その他の分野や商品名などを含む、全国各地の約80件の事例を紹介してあります。