大阪の方言みやげは近頃元気です。通天閣の近くなどには、方言みやげをたくさん並べた店があります。空港売店でも種類が増えました。しかも積極的に人に見せるための品が増えました。扇子は広げて使ったときに方言だと分かるので、商談のきっかけなどによさそうです(写真1)。Tシャツも増えました。2005年には「しばいたろか」と書いたのを売っていて、実際に外国人観光客が着ていました。ちょっと怖い感じでした。2007年には、「好きやねん」「ごめんやす」「なんでやねん」などが並んでいました(写真2)。こちらは親しめます。
そういえば2005年に沖縄に行ったときも方言Tシャツを売っていました(写真3)。「なんでかねー?」「だからよぅ…」「であるわけさ!」と書いてありました。会話のセットになっています。今の沖縄の若い人がよく使う表現で、しかも翻訳を付けなくても分かります。Tシャツで使われる方言には、読んで分かるという共通性があります。
ふと気づきました。Tシャツは日常着るものです。その人はなかば公共の場で方言の宣伝をしていることになります。昔の方言土産の定番、方言絵はがきは、実用に供したとしても、ほんの数人の目にふれるだけでした。方言手ぬぐいや方言のれんも、家の中に飾るのだと、家族とお客さんが目にするだけです。私的な空間で楽しむ方言でした。
さて、モノが高いか安いかの判断には、「使用価値」が働くことがあります。何万円もするとしても、よく使うものなら安くつくという発想です。その流儀でいうと、Tシャツは1語(またはワンセンテンス)で1000円前後ですから1語あたりは高いんですが、街歩きなどで実用に供した時に、目にする人の数は多いでしょう。1語あたりの読者数(?)は、方言のれんなどよりも多い計算になります。
しかも方言Tシャツは、着ている人のイメージをかもし出すことができます。仲よくなれる人も多くなるかもしれません。並みのTシャツより楽しみが大きく、効用が大きい、ということは、使用価値が大きいわけです。
方言Tシャツは、方言が公的な空間で堂々と陳列されることを意味します。そんな目的に方言が使われるようになったわけですから、方言の社会的な位置づけが違ったことになります。方言の価値が上昇したことがそのまま方言1語あたりの値段の上昇に反映したことになります。
ただしコレクションとして貯めこむだけの人には、Tシャツは高くつきます。そもそも物を収集することは、使用価値と関係のない行為なのです。
と考えたところで、売場の別の品に目が行きました。トランクスで、Tシャツと違って公共の場で見せる商品ではありません。しかし「めっちゃ好きやねん」と書いてあります(写真4)。まあ世の中には、ズボンを脱いだときにこの表現が相手の目に入って、効果的な場面もあるんでしょう。まさに一発勝負の面白さ。それなりに使用価値が大きいのです。商都大阪の方言みやげは奥が深い! 言語経済学の論理が貫徹するのです。でもあまりフカーク考えないでください。
なお大阪方言の別の扇子の写真が、次の本に載っています。