京都ことばが全国に広まった例をご紹介しましょう。
なべ料理がおいしい季節になりました。「ほっこりなべ」という器が売られています【写真1】。「ほっこりなべ」の材料は、とり団子、キムチ、ありあわせなどさまざま。「圧力なべでほっこり煮上げる料理」も紹介されています。「ほっこりさといものけんちん鍋」は、あたたかいおいもでしょう。そういえば、「ほこほこほっこりのやきいも~♪」というメロディーを聞いて、寒い夜にやきいもを買いに出た記憶があります。「ほっこり」には「あたたかい」という意味があります。「ほこほこ」は、暖かくて気持ちがよいことを指します。
「ほっこり」は、石川、福井、滋賀では、「ほんとうに」「実に」の意味でよく使われています。滋賀県湖北部では、「足のお具合はどおどす?(どうですか)」と聞くと「ほっこりしまへんので・・・」という答えが返ってきます。「まだ、病気がよくならない」とか、「十分でない」という意味です。「ほっこり、いかんことでございましたなあ」とは、ねぎらいやお悔やみの言葉です。全国に広まった「ほっこり」は、否定的な意味はなく、あたたかくて気持ちがほぐされるような安堵感、幸福感といった意味が強調されています。
ついでながら、美容室で「ほっこりボブ」というヘアスタイルがあると聞きました。何でも丸くてかわいいヘアスタイルだそうです。
「ほっこり」と同じくらいよく見かける言葉に「はんなり」があります。「はなばなはんなり」のように、「はんなり」は、もともと華やかで、ぱっと明るいことを意味しますが、知ってはいても、話し言葉で聞く機会は少ないでしょう。「はんなり」豆腐【写真2】は、豆腐のふわふわグッズの名称です。ケーキ、クッションなどが豆腐の形をしていてふあふあなのです。「はんなり楽しむ大人の旅」のキャッチフレーズには、「和心に回帰する旅へ」と副題がついています。「はんなりするおもてなし」という例もあり、「ふわーっとした、やさしさ」をうったえていると考えられます。
「舌にとろけるような味」の「まったり」は、1980年代のグルメブームにのって全国に広がりました。「またい(全い)」の語幹に接尾語「リ」をつけて促音化したと考えられます。とろんとして穏やかな口当たりをいいます。漫画『美味しんぼ』などで味覚を表すことばとして登場し、1990年代に若い世代が「のんびりする」という意味に転用しました。
寒い冬を「ほっこり」なべで、おいしい「はんなり」豆腐が入った料理をいただいて、温泉で「まったり」と一日を過ごす、想像しただけで心がなごみます。ご紹介した豆腐は食べられませんが、そのかわり京都弁の味わいの深さをご賞味ください。
編集部から
皆さんもどこかで見たことがあるであろう、方言の書かれた湯のみ茶碗やのれんや手ぬぐい……。方言もあまり聞かれなくなってきた(と多くの方が思っている)昨今、それらは味のあるもの、懐かしいにおいがするものとして受け取られているのではないでしょうか。
方言みやげやグッズから見えてくる、「地域語の経済と社会」とは。方言研究の第一線でご活躍中の先生方によるリレー連載です。