(菊武学園タイプライター博物館(3)からつづく)
菊武学園タイプライター博物館には、「New Yost」も展示されています。この「New Yost」は製造番号が14941で、スペースバーを支える棒がY字型をしていて、78キーのモデルです。キー配列は、ヨスト・ライティング・マシン社の他のモデルと同様、大文字と小文字が別々のQWERTY配列です。
タイプバスケットを囲む円筒には、前面に「YŌST」の文字があり、後面の右側と左側の両方に円筒を支える「脚」が付いています。一方、プラテンを1行進める(ラインフィード)ためのレバーは、平たい「ヘラ」のような形状をしています。これらの点を考え合わせると、この「New Yost」は1893年の製造だと推定されます。後面に記された数多くの特許のうち、最後のものが「No.487066 Nov 29, ‘92」であることからも、この推定が裏付けられます。
プラテンを上げると、タイプバスケットが見えます。タイプバスケットには、78本の活字棒が円形に配置されていて、中央にはアラインメント・ターゲットが見えます。本来であれば、円筒の内側にインクが塗られていて、活字棒の先にインクが付くようになっているのですが、この「New Yost」ではインクは完全に乾いてしまっていました。
「New Yost」は、分類上はアップストライク式タイプライターにあたるのですが、その印字機構は、かなり特殊なものです。キーを押すと、対応する活字棒は円筒を離れ、いったん下方に下がったあと、中央のアラインメント・ターゲットめがけて打ち上がります。活字棒の動きが、バッタの跳び方を上下逆にしたようなものであることから、リバース・グラスホッパー・アクションと呼ばれています。アラインメント・ターゲットを中心とするこの機構によって、紙に印字された文字がきれいに一直線に並ぶ、という素晴らしい利点があったのです。ただ、複雑な機構であるがため故障も多く、実際、菊武学園の「New Yost」においても、ほぼ全ての活字棒が動作しない状態になってしまっていました。