今回は、「もてなしの方言」のシリーズ最終回になります。次回から「おいしい方言」と題して、味覚に関わる各地の方言の使用例をとりあげ、連載する予定です。楽しみにしてください。
(画像はクリックで拡大します)
さて、北東北地方で、とりあげる最初の例は、「来さまい!下北共和国」(かさまい!・来てください・第37回参照【写真1】)です。A4判のむつ市の宣伝冊子の左上に小さく書かれていた方言です。小さくてほとんど気付かない大きさで研究者泣かせです。私の古いカメラで撮った(腕はいいはず?)ものをやっと拡大してご紹介します。下北には、ほかにも「来てください」にあたる言い方があって、「来さまい」「来さいん」「来せ」の順に丁寧度が下がります。
次の例は、弘前市を訪れた際、津軽絵作者の山内和人さんじきじきに買った絵葉書に書かれていた方言です。ご本人から承諾を得たこともあってご紹介します。「来いへ来いへ福の神 来いへ来いへイイものみんな こっつぁ 来いへ」(おいで おいで 福の神 おいで おいで 良いものは みんな こっちに おいで【写真2】)と書かれています。良いものは、みんな「来いへ」とまねいているのでとりあげました。相手に丁寧に求める言い方で、「見でけへ」(見てください)のような例もあります。
「きてたんせ」(来てください【写真3】)は、秋田県わか杉国体支援協議会2007が作成した宣伝の文句です。秋田県では、「ごめんして、たんせ」(訪問先で帰るときの挨拶)や、「見てたいや」(見てください)など、「ください」の意味を表す「たい」と、そこから派生した「たんせ」が使われます。
「きてけろ」(来てください【写真4】)は、モリアオガエルのキテケロ君が八幡平の見どころを案内しています。岩手県盛岡市の例です。「けろ」は、「ける」(くれる)が元の形ですが、「けな」(やるな)、「けない」(やらない)などの言いかたがあります。「おでゃんせ」【写真5】(岩手県)はすでに、田中宣廣さんが第31回、41回など数回にわたって書いています。けれどもその表現、表記は、驚くほどバラエティーに富んでいます。
北海道は、未発見です。
もてなしの方言(北東北地方) | |||
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写真1 | 来さまい! | むつ市 | 青森県 |
写真2 | 来いへ | 弘前市 | |
写真3 | きてたんせ | 秋田県 | |
写真4 | 来てけろ | 盛岡市 | 岩手県 |
写真5 | おでゃんせ |
編集部から
皆さんもどこかで見たことがあるであろう、方言の書かれた湯のみ茶碗やのれんや手ぬぐい……。方言もあまり聞かれなくなってきた(と多くの方が思っている)昨今、それらは味のあるもの、懐かしいにおいがするものとして受け取られているのではないでしょうか。
方言みやげやグッズから見えてくる、「地域語の経済と社会」とは。方言研究の第一線でご活躍中の先生方によるリレー連載です。