駅弁は,その土地の地方色を出すことが求められます。名物料理や特産物を入れたり,土地にふさわしい名称を付けたりします。方言が使われるのが自然な成り行きだと思いますが,意外と少ないようです。
この連載の第62回では,福島県の郡山駅の「方言駅弁『ずうずう弁』」が紹介されました。今回は,その駅弁シリーズ(2)とします。2件紹介します。
一つは,「までぇにつぐったお弁当」【写真1】です。宮城県のJR仙台駅内で発売されています。
「までぇに」は,パッケージの共通語訳のとおり,「ていねいに」の意味です。(あとで解説)
「つぐった」は,東北方言の特徴である語中カ行音の濁音化現象を写していますね。
これらの解説や,「宮城のうめぇもん ぎっしり」の方言も記されています。⇒【写真1~全体】
さて,「まで」は,今から1400年以上前の奈良時代から続くことばです。元の意味は「両手」です。
はっきりと「両手」の意味の用例が確認できるのは,鎌倉時代で,「まて」でした。奈良時代にもその用法があったことも推定されています。
『万葉集』(759年頃成立)は,漢字だけで日本語を表す万葉仮名で表記されていますが,その表記方式の一つに戯訓と呼ばれる当て字的表記があります。そのなかで,助詞の「-まで」の多様な表記のうち,両手を示す表記(「二手」「左右」「左右手」「諸手」)もあります。これが,奈良時代に既に両手の意の「まで」があった証明とされています。
正宗敦夫編『万葉集総索引』で数えたところ,助詞の「-まで」は全部で167例,うち,両手を示す表記でのものは54例でした。
「まで(まて)」の「ていねい」の意味は容易に理解できます。両手で物を扱うのは,片手でよりていねいになりますね。そこからこの意味が,安土桃山時代から出てきました。これが,現代では東北地方の方言で使われます。「まて」も「まで」も,東北方言では「ま[で]」です。
なお,お弁当は中華弁当で,宮城県大崎市の福祉施設で作った餃子や焼売を使い,施設と仙台市の業者の共同企画で製作されています。
もう一つ,お弁当そのものではなく,企画旅行商品です。
JR東日本の駅弁付きツアー「駅行く弁」です。「弁」のところが,勧誘の「べー」と掛けられ,「駅行くべー」(駅に行こう)となっています。
“東北新幹線”が駅弁を食べる図柄がシンボルマーク【写真2】です。