地域語の経済と社会 ―方言みやげ・グッズとその周辺―

第114回 山下暁美さん:おいしい方言(熊本県)

筆者:
2010年8月28日

おいしい方言について、今回は、九州の熊本県をご紹介します。
 「うまかばい。いっぺん食べたら忘れられんけん!」【写真1】
 「~ばい」(~よ・~ぞ)は、自分の気持ちを相手に伝えたいときの終助詞です。
理由を表す「けん」(から)は、中国地方以南に分布します。中国地方では「ケー」、大分県では「キー」というところもあります。火の国熊本のとんこつ特製スープ付のラーメンです。「二人前」(ににんまえ)と通常書いてあると思いますが、「お二人前」(おふたりまえ)と書いてあるのは、丁寧さをそえているのでしょうか。

左:【写真1】 右:【写真2】

「食べてみんね」【写真2・食べてみないの】は、日本一大きいと言われる天草のにわとり、天草大王が入った鍋料理です。「~ね」は、「なんばいうとね」(なにをいっているの)のように話し手の気持ちを伝える終助詞です。

【写真3】「だごうまか」
【写真3】

「だごうまか」【写真3・とてもおいしいよ】とあるのは、熊本のおみやげ、冷しいきなり団子です。熊本のよいおみやげ「よかもん」決定戦コンクール2007で選ばれたそうです。「だご」は、「とても・非常に」の意味で「団子」(だんご)とかけことばになっています。九州では、方言のもち味をうまく活かして、若者たちがことば遊びを楽しんでいるそうです。「うまか」は、「うまい」と断定することを避けて、「うまか」「よか」などと言います。「いきなり団子」の「いきなり」には、「やりっぱなし」「でだらめ」という意味や「簡単な」という意味があります。

【写真4】「どんこん」
【写真4】

「どんこん、たまがっどぉ!!」【写真4】の「どんこん」は、「たくさん」「とても」「いっぱい」の意味で、「たまがっどぉ!!」は「びっくりするぞ」の意味です。「たまがる」(びっくりする)は、九州全域に分布しています。「たまがす」「たまげらかす」(驚かす)という言い方も熊本県にあります。「魂消」(たまがす)と漢字で書くと意味がわかります。「たまがる」は九州地方に分布しますが、よく似た形の「たまげる」は、東日本に分布しています。

筆者プロフィール

言語経済学研究会 The Society for Econolinguistics

井上史雄,大橋敦夫,田中宣廣,日高貢一郎,山下暁美(五十音順)の5名。日本各地また世界各国における言語の商業的利用や拡張活用について調査分析し,言語経済学の構築と理論発展を進めている。

(言語経済学や当研究会については,このシリーズの第1回後半部をご参照ください)

 

  • 山下 暁美(やました・あけみ)

明海大学客員教授(日本語教育学・社会言語学)。博士(学術)。
研究テーマは、言語変化、談話分析による待遇表現、日本語教育政策。在日外国人のための「もっとやさしい日本語」構想、災害時の『命綱カード』作成に取り組んでいる。
著書に『書き込み式でよくわかる日本語教育文法講義ノート』(共著、アルク)、『海外の日本語の新しい言語秩序』(単著、三元社)、『スキルアップ文章表現』(共著、おうふう)、『スキルアップ日本語表現』(単著、おうふう)、『解説日本語教育史年表(Excel 年表データ付)』(単著、国書刊行会)、『ふしぎびっくり語源博物館4 歴史・芸能・遊びのことば』(共著、ほるぷ出版)などがある。

『書き込み式でよくわかる 日本語教育文法講義ノート』 『海外の日本語の新しい言語秩序―日系ブラジル・日系アメリカ人社会における日本語による敬意表現』

編集部から

皆さんもどこかで見たことがあるであろう、方言の書かれた湯のみ茶碗やのれんや手ぬぐい……。方言もあまり聞かれなくなってきた(と多くの方が思っている)昨今、それらは味のあるもの、懐かしいにおいがするものとして受け取られているのではないでしょうか。

方言みやげやグッズから見えてくる、「地域語の経済と社会」とは。方言研究の第一線でご活躍中の先生方によるリレー連載です。