地域語の経済と社会 ―方言みやげ・グッズとその周辺―

第165回(2) 大橋敦夫さん:上越弁 高田言葉のCD(新潟県上越市)(2)

筆者:
2011年8月27日

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製作者へのインタビュー

「おまんた えますぐ使える えっちょまえの上越弁」の脚本・演出など、全般にわたって関わられた滝沢いっせいさんにお話を伺ってみました。

●脚本の場面は、どのように選ばれましたか?

「やわやわ生活篇」は、ひと組の家族や井戸端会議の奥様方を軸に、日常生活のなかで、どのように高田言葉が使われるかを主眼に構成しています。非日常的なシーンよりも、聴く方だれもが、「自分ならこうしゃべるところだ」「標準語ならこう話す」と想像できる、ごくありきたりな日常の方が、高田言葉の特徴をつかみやすいと考えたのです。

シーンは、全くの想像で書きました。が、川に落ちた人の話などは実話です。

「高田の四季篇」は、高田在住者なら誰でも知っている市民歌「高田の四季」からタイトルだけをもらいました。

憲法前文は、いろんなお国ことばで言ってみると……という運動が全国でなされており、それに乗っかって行なってみました。

●録音で苦労されたことはありますか?

高田言葉の部分は、地元の読み語りの会のメンバー、地元のアマチュア劇団の座長さんらにお願いしました。60代のご婦人方は、案に相違して、高田言葉をあまり話せなかったので苦労しました。高校生の若者たちも全く話せませんでした。監修者にもなった有沢栄一さんを主とした指導によって、なんとか形にできたというところです。

●CDを購入された方の反応はいかがですか?

概ね好評のようです。「もっと簡単なものかと思ったら、ちゃんとしていて驚いた」などの声を聞いています。また、故郷を離れて首都圏等にいらっしゃる方々からは、「郵送前から待ち焦がれていた」「聞いて涙が出た」「父母や祖父母を思い出した」といった声を寄せていただいています。

●上越市内の全小中学校に寄贈されたとのことですが、反響はいかがですか?

直接のリサーチはしておりません。残念ながら、あまり活用されていないかも……と感じています。

●直江津言葉の製作も計画されているとのことですが……。

資金のめどが立ちませんが、関西に近い糸魚川言葉にも、興味を持っています。

追加情報ですが、今年度中に、「新潟ことばシンポジュウム」を開こうと、有沢さんとともに計画しています。各地からネイティブスピーカーを集め、寸劇あり、お国自慢ありの楽しいものにしたいと考えています。

 

地域の言葉の過去と現在、そして未来を見つめた企画だということがわかります。こうした動きが各地に広まると楽しいですね。

筆者プロフィール

言語経済学研究会 The Society for Econolinguistics

井上史雄,大橋敦夫,田中宣廣,日高貢一郎,山下暁美(五十音順)の5名。日本各地また世界各国における言語の商業的利用や拡張活用について調査分析し,言語経済学の構築と理論発展を進めている。

(言語経済学や当研究会については,このシリーズの第1回後半部をご参照ください)

 

  • 大橋 敦夫(おおはし・あつお)

上田女子短期大学総合文化学科教授。上智大学国文学科、同大学院国文学博士課程単位取得退学。
専攻は国語史。近代日本語の歴史に興味を持ち、「外から見た日本語」の特質をテーマに、日本語教育に取り組む。共著に『新版文章構成法』(東海大学出版会)、監修したものに『3日でわかる古典文学』(ダイヤモンド社)、『今さら聞けない! 正しい日本語の使い方【総まとめ編】』(永岡書店)がある。

大橋敦夫先生監修の本

編集部から

皆さんもどこかで見たことがあるであろう、方言の書かれた湯のみ茶碗やのれんや手ぬぐい……。方言もあまり聞かれなくなってきた(と多くの方が思っている)昨今、それらは味のあるもの、懐かしいにおいがするものとして受け取られているのではないでしょうか。

方言みやげやグッズから見えてくる、「地域語の経済と社会」とは。方言研究の第一線でご活躍中の先生方によるリレー連載です。