地域語の経済と社会 ―方言みやげ・グッズとその周辺―

第256回 田中宣廣さん: 「じぇじぇ!」

筆者:
2013年6月1日

(写真はクリックで全体表示)

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【写真1】オラ~好きだ
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【写真2】三陸鉄道久慈駅の「じぇ」
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【写真3】久慈弁手ぬぐい
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【写真4】久慈弁手ぬぐいの解説

今,岩手県といえば,NHK朝の連続テレビ小説『あまちゃん』です。セリフは,岩手県久慈(くじ)市の小袖(こそで)地区の方言がもとだとされています。各週のタイトルは「おら……」で,ポスターも「オラ,三陸が好きだ」「オラ,この海が好きだ」(2種あり)【写真1】です。なかでも,驚いたときに発せられる「じぇじぇ」が話題になっています。私も,小学館『週刊ポスト』(5月3日・10日号)で少し説明しました。岩手県の驚いたときのことばでは,この連載でも第21回で,盛岡市の「じゃじゃじゃ」を説明しました。

番組が始まって以来,久慈市では,この「じぇじぇ」が多くの観光客を迎えています。三陸鉄道の久慈駅では,海女と「じぇ」の組み合わせの方言メッセージ【写真2】がお客を迎えます。同鉄道車内で発売の方言みやげ(手拭い)は,「じぇじぇ」を中心にデザインされ【写真3】,パッケージに解説が付いています【写真4】。

ここで,「じぇじぇ」について第21回の復習も兼ねて説明します。これは,久慈市のなかでも中心部では使われず,小袖地区だけの方言だと言われています。久慈市出身者に直接確認しました。ただし,同じ岩手県でも遠く離れた(約190km)遠野市の『遠野昔話』にも多くの用例があります。熊谷印刷出版部刊『遠野むかしばなし』全4集(1987~1995)では,全200話のうち32話に38例が認められます。岩手県内では他に,盛岡市で「じゃじゃじゃ」(主に男性。女性は「さささぁ」が多い),宮古市で「ざざざぁ」です。東京では「あっ」また「えっ」などと声を発するだけか,ことばを言わないこともあります。この地方では驚いたときことばを言い,それが各地で異なります。だから,驚きのことばにその地域を端的に表す効果があるわけです。

なお,「じぇ」の回数ですが,今回の題名や『あまちゃん』のHP=//www1.nhk.or.jp/amachan/では2回です。驚きの程度により使い分けます。1回や3回(ドラマ内では8回も)あります。同サイトの「能年玲奈のちょびっとトーク(14)」では「じぇ! じぇじぇ! じぇじぇじぇ!」と,1~3回が並びました。【写真3】の方言手拭いも同様です。『遠野むかしばなし』では1回が6例,2回が32例です。盛岡の「じゃじゃじゃ」「さささぁ」,宮古の「ざざざぁ」は3回が基本ですが,2回や1回もあります。

筆者プロフィール

言語経済学研究会 The Society for Econolinguistics

井上史雄,大橋敦夫,田中宣廣,日高貢一郎,山下暁美(五十音順)の5名。日本各地また世界各国における言語の商業的利用や拡張活用について調査分析し,言語経済学の構築と理論発展を進めている。

(言語経済学や当研究会については,このシリーズの第1回後半部をご参照ください)

 

  • 田中 宣廣(たなか・のぶひろ)

岩手県立大学 宮古短期大学部 図書館長 教授。博士(文学)。日本語の,アクセント構造の研究を中心に,地域の自然言語の実態を捉え,その構造や使用者の意識,また,形成過程について考察している。東京都立大学大学院人文科学研究科修士課程修了。東北大学大学院文学研究科博士課程修了。著書『付属語アクセントからみた日本語アクセントの構造』(おうふう),『近代日本方言資料[郡誌編]』全8巻(共編著,港の人)など。2006年,『付属語アクセントからみた日本語アクセントの構造』により,第34回金田一京助博士記念賞受賞。『Marquis Who’s Who in the World』(マークイズ世界著名人名鑑)掲載。

『付属語アクセントからみた日本語アクセントの構造』

編集部から

皆さんもどこかで見たことがあるであろう、方言の書かれた湯のみ茶碗やのれんや手ぬぐい……。方言もあまり聞かれなくなってきた(と多くの方が思っている)昨今、それらは味のあるもの、懐かしいにおいがするものとして受け取られているのではないでしょうか。

方言みやげやグッズから見えてくる、「地域語の経済と社会」とは。方言研究の第一線でご活躍中の先生方によるリレー連載です。