「やらまいか」とは、浜松市でよく使われる方言で、「やってみよう」「やろうじゃないか」を意味します。浜松商工会議所では、この語を用いた「やらまいか浜松」を地域ブランド創世のキャッチフレーズに採用しています(第261回参照)。
「やらまいか浜松」認定の品目には、特産のミカンやうなぎに交じって、浜松初のブランド米、その名もずばり「やら米か」(浜松地域特別栽培米研究会)があります。
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●命名のねらいは?
「やら米か」は、静岡県浜松市内の浜松地域特別米栽培研究会会員(23人)によって生産される浜松地域初のブランド米です。ネーミングを検討した結果、メインターゲットである浜松の消費者になじみのある方言をもじった「やら米か」に決定しました。
「やら米か」という言葉には、「(皆で一緒に)やってみよう」という浜松人の心意気を象徴する前向きな思いがこめられています。
「やら米か」のブランド化活動は、「誰がいくらで買ってくれるか分からない」という意見もあるなか、「何もしなければ何も変わらない、できることから、みんなではじめよう」という、まさに「やらまいか精神」から始まった活動です。
●お客様の反応は、いかがですか?
お客様皆様、特に浜松地域にもともと住んでいる方の「やら米か」認知度は高く、若い方から年配の方まで商品名に親しみを持ってくださっています。
浜松市外や遠方のお客様には「やらまいか」という方言独特のユニークな響きが受けているようです。
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ちなみに、ホンダの創業者・本田宗一郎氏(浜松で起業)の評伝のタイトルにも、この言葉が使われています。(梶原一明監修『本田宗一郎の見方・考え方――ビジネスには「やらまいか」精神で当たれ!――』PHP研究所 2007)
なお、「やらまいか」と、それに類似する表現は、長野県の南部でも使われており、「なやし方言」(第25回参照)の一例に加えられそうです。以下に、その使用例を挙げてみましょう。
[長野県飯田市]
・書名
『やらまいか松尾――自分たちのまちは自分たちの手で――(松尾地区基本構想)』(飯田市:松尾地区自治会 2002)
・市政に対する市民からの提言箱の愛称
「やらまいか提言」(平成10年代半ばから使用)[長野県木曽福島町]
・書名
『つくらまいか 木曽福島の味』(四季の会(木曽福島町)編・木曽農業改良普及センター 2001)
『つくらまいか 木曽の味』(四季の会編・発行 2009)
勧誘表現の全国分布については、GAJ(『方言文法全国地図』国立国語研究所)第5集・第235図・第236図(「行こうよ」)で扱っています。
第235図 //www2.ninjal.ac.jp/hogen/dp/gaj-pdf/gaj-map-legend/vol5/GAJ5-235.pdf(PDF)
第236図 //www2.ninjal.ac.jp/hogen/dp/gaj-pdf/gaj-map-legend/vol5/GAJ5-236.pdf(PDF)
それによると、岐阜(イコマイカ・イカマイカ・イカマイ)・愛知(イコマイ・イカマイ)にも分布のあることがわかります。