今回は、“外来語”の発音について地域差があるという話です。なかなかふだんは気づかないのですが、手書きの表示を見ると“外来語”をどのように発音しているかがわかります。ハンドバッグを例にあげて見ていくことにしましょう。
浅草にある「ほそいハンドバック店」は80年続いているハンドバッグの専門店です。ほそいハンドバック店に入ると、【写真1】のような表示があります。店主直筆とのことです。ご主人に伺ったところ昭和初期に創業したとき「ハンドバック」という言い方が一般的で、今もそれを引き継いでいるとのことでした。
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実際に各地をまわってみると、「ハンドバック」の表示は、東京都内では、下町とその周辺を含む浅草や上野【写真2】などに多く、山の手は「ハンドバッグ」が多いです。住宅地に隣接して発展した比較的歴史のある商店街にも見られます。東京ミッドタウンと五つ星ホテル6か所のブティックには「ハンドバック」の表示はありませんでした。山手線の外側の新興地域で駅構内の臨時キオスク、ショッピングモールの中にある小売店で「ハンドバック」を見かけることもあります。
【図1】は、「ハンドバック」と「ハンドバッグ」の表示について、地方公共団体のホームページ(lg.jp)で調べた結果です。「ハンドバック」と「ハンドバッグ」は、消費生活相談、遺失物届け、ひったくりなどの犯罪情報、防虫剤、インターネットとりひきによるトラブル、求人などさまざまな記事の中で使われています。
東京都内の「ハンドバック」の使用率は、山の手の地域に少なく、その周辺の地域に多くなっています。ここで言う下町は、山手線の外の東側を中心とした地域です。戦後住宅地として広がった山手線の外の西側は、北部と南部に分けると特徴が見えます。山の手ことばと下町ことばの意識は、地域的にもはっきり分かれています(『東京都言語地図』)。【図1】を見ると、山手線西側には、下町の言語意識に通じるものがあると考えられます。
地方公共団体のホームページ(lg.jp)については、『ことばの散歩道』(井上史雄著 明治書院、2013)を参照しました。