このシリーズでは、地域語(方言)が文字に記された例がたくさん扱われています。今回は方言みやげの古典的な例、方言手ぬぐいをとりあげましょう。方言手ぬぐいに取り上げられることばは、大部分が古めかしいもので、若い人が耳にしたことのない単語が並んでいます。ところがそのなかに、方言の変化を示す新しい言い方も混じっているのです。
1970年代の山形県鶴岡市の方言手ぬぐいでは、「めっこい」(可愛らしい)が使われています【写真1】。写真の上の段、真ん中あたりです。ところが山形県鶴岡市の子ども一時預かり施設は「めんごい」と名乗っています【写真2】。どうして2種類あるのでしょう。
「めんごい」の語源は、古語の「めぐし」(かわいい)です。江戸時代の東北地方の方言集には「めごい」という古語に近い発音のことばが載っています。方言調査の結果によると、山形県庄内地方では、その発音が少し変化した「めんごい」を使っていましたが、戦後「めっこい」という言い方が広がりました。つまり新古関係なのです。「新方言辞典稿・インターネット版」参照。//triaez.kaisei.org/~yari/Newdialect/nddic.txt
数年前に秋田県でも「我が家のMEKKOI写真展」という広告を見つけました。
東北地方で「かわいい」を「めんこい」ということは、戦前の童謡「めんこい仔馬」で知られるようになりました。先日東北道のサービスエリアで方言グッズを探していて、山形県と福島県で「麺恋手」(めんこいて)というコースター(または小さい鍋敷き)を見つけました。
山形県庄内地方で「めんごい」から「めっこい」に変わったのは、東北地方に広い「めんこい」の影響を受けたのかも知れません。今でも「新方言」が誕生して、方言グッズの中で生き生きと使われているのです。
また方言手ぬぐい【写真1】の下の段の真ん中あたり、「がんぽ」(耳が聞こえない)も方言の変化の例です。江戸時代の鶴岡の方言集に「きんか」と書いてあり、明治の方言集には「がんぽ」と書いてありますから、100年ほど前に入れ替わったのでしょう。
方言というと大昔から変わらないととらえられることが多いのですが、いつの時代にも少しずつ変化しているのです。今でも新方言を生みだしています。新方言の例は以下でも扱われています。