これまで海外の方言グッズを紹介してきました(→『魅せる方言 地域語の底力』第3部)。中国では漢字を使うので、方言をどう表わすのか、見当がつきませんでした。2014年秋に南京で方言絵はがきを見つけて分かりました。大きく書いてある漢字で南京のことばを示し、小さい漢字でその意味を説明しています。漢字でも方言を表わせるのです【写真1】。
【写真2】は【写真1】の左から3行目を拡大したものです。大きい字の「意怪」の右に小さい字で「不舒服」と書いてあります。「不舒服」をインターネット翻訳サイトで中国語から日本語に訳すと「具合が悪いです」という文が出ます。「意怪」を中国語から日本語に訳すと「意は奇妙です」という文字通り奇妙な文が出ます。南京方言の「意怪」は北京語(普通話)とまったく違う表現なのです(長沙方言では「性格が悪い」の意味で使うそうです)。
その下の簡体字「阿吃过啦」の右に小さく書いてある「吃饭了吗」(=吃飯了嗎)は、普通話で「おはよう、今日は」にあたるあいさつです。「チーファンラーマー」と発音され、直訳なら「ご飯を食べたか」です。「阿吃过啦」(=阿吃過啦)を北京語(普通話)で読むと「アーチーグオラー」になります。南京ではこう言うのでしょう。こんなに違っては、南京方言は北京で通じないでしょう。
ほかのことばは、小さい字の北京語の単語の意味も分からないし、大きい字の南京方言も分かりません。専門の人に任せましょう。
これで中国にも方言絵はがきがあることが分かりました。思いついて、インターネットで検索してみました。翻訳ソフトで「絵はがき」を中国語に訳すと、「明信片」です。この文字をコピーアンドペーストして、Yahooの画像検索で「明信片」「中国」「方言」を入力すると、たくさん出ます。
検索ソフト中国版の「百度」baiduを使うと、もっとたくさん出てきます。「明信片」「方言」の文字をコピーアンドペーストして検索し、上端ツールバーの「图片」(=図片)をクリックすると実物画像が出ます。多くは発音をローマ字(拼音ピンイン)で示してあります。例えば「南昌方言」では簡体字の「客気」にkei qiと声調記号(四声)が付いて、発音が分かります。絵で意味が分かります。ほかにも方言を記したライター、ブローチ、トランプなどの画像もありました。またかつては方言撲滅の時代があり、中立的記述の時代を経て、今は方言娯楽の時代に入りつつあることも読み取れました。日本語と同じです。
この翻訳+検索の方法を使うと、他の言語でも、方言絵はがきや方言グッズが見られます。インターネットのおかげで、昔はできなかったことが可能になったのです。皆さんも試してください。(中国語については甲南大学都染直也教授、日経リサーチ江源氏のご指導をいただきました)