地域語の経済と社会 ―方言みやげ・グッズとその周辺―

第328回 日高貢一郎さん:若者向けの方言作品,オンパレード

2015年5月16日

最近,若者世代を対象にした方言に関する商品が次々に登場しています。若い人たちには若い世代ならではのふだん着のことば=方言があり,それを駆使して,同世代の人たちにアピールして共感を呼んでいます。(『方言CD』甘口版・辛口版(第98回 若い女性が方言で愛を告白『方言CD』)も参照)

今回紹介するのは,DVDやCD,写真やイラストなどの,方言を活かした作品群です。

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【写真1】①『方言女子』(マガジンハウス刊)
【写真1】①『方言女子』
(マガジンハウス刊)
【写真2】⑨『乙女心ねらい撃ち! 胸キュン★方言男子コレクション 47都道府県擬人化』(カンゼン刊)
【写真2】⑨『乙女心ねらい撃ち!
胸キュン★方言男子コレクション
47都道府県擬人化』(カンゼン刊)

まず,①『方言女子』は全国各地の若い女性46人の写真とDVD(60分)とが付いた1冊で,その土地の若い世代の方言で,目に耳に語りかけてきます【写真1】。

DVDでは『方言彼女。』『方言彼氏。』があります。元はテレビ番組として好評を博し,それをDVD化したものです。チャーミングな乙女を主人公にした②『方言彼女。』は,『方言彼女。』甲盤・乙盤,『方言彼女。2』華盤・雅盤,『方言彼女。0[LOVE]』起盤・承盤・転盤・結盤があり,イケメン男子を主人公にした③『方言彼氏。』には「キュート版」と「スイート版」があります。

CDでは,④ドラマCD『方言恋愛』シリーズがあり,1.愛知・高知,2.京都・山口,3.新潟・福岡,4.長野・茨城,5.香川・福島,6.兵庫・石川まで出ています。それぞれの土地の若者世代の方言を活かした青春ラブストーリーが展開しています。それを再編集した,⑤ラジオCD『方言恋愛』には3県ずつ入っていて,1.愛知・山口・新潟,2.長野・福島・広島,があり,これには新たに各県の県民性クイズや方言講座など,先の「ドラマCD」とはまたひと味違ったものが含まれ,それぞれ熱く地元愛を語る内容になっています。番外編として,⑥語りかけCD『恋する方言(ことば) 方言恋愛 side B 金沢編』もあります。

また⑦「ドラマCD」と銘打った『方言男子 りとる・じゃぱん』で活躍しているのは,横浜・尾張・土佐・浪速・備後出身の声優たちです。さらに続編も2本作られています。

他に,地方制作のCDでは⑧『方言少女 鹿児島弁』があり,「もぜか」〔かわいい〕少女の語りかけを聞くことができます。

次に,本のほうでは,⑨『乙女心ねらい撃ち! 胸キュン★方言男子コレクション 47都道府県擬人化』は,キャッチフレーズに「イケメンが方言を話すと萌える!」「乙女のための1冊」「47人すべての男子が訛(なま)っています!!」とあり,全国の方言を擬人化して描き,各都道府県の方言の特徴を目から訴えかけてきます【写真2】。また,その続編もあります(第214回 「胸キュン方言」)。

同じく本では⑩『方言男子 おら、おめが好きだ』(マンガ)があり,自分の熱い思いを方言で意中の彼女に訴える7つのストーリーが収録されています。

こうしてずらっと並んだ27種を見ていると壮観で,「方言作品」花盛りの感があります。若者世代では「方言」を《それぞれの地域らしさを表す個性,自分たちの思いを率直に表現する本音のことば》だとプラスに捉えていることが共通点として浮かび上がってきます。かつて,《方言は古くさい,垢抜けない》などとマイナスで否定的な評価をされがちでした。地方出身者にとってはそれが劣等感やコンプレックスを抱く大きな要因だとされていましたが,近年はそれが正反対になり,《「方言」はむしろ貴重で地域文化を象徴し代表するもの》として,見方にも評価にも大きな転換,逆転現象が起こっていることを強く感じます。

その背景として,方言が衰退しつつあることへの危機感と,若者世代が共通語を十分使いこなせるようになり,必要に応じていつでも話すことができるという自信と余裕が備わり,《自らの方言には希少価値があるのだと,誇りに思う気持が生まれてきた》からだと捉えることができるでしょう。時代の流れと意識の変化が伝わってくる事例の一つです。

筆者プロフィール

言語経済学研究会 The Society for Econolinguistics

井上史雄,大橋敦夫,田中宣廣,日高貢一郎,山下暁美(五十音順)の5名。日本各地また世界各国における言語の商業的利用や拡張活用について調査分析し,言語経済学の構築と理論発展を進めている。

(言語経済学や当研究会については,このシリーズの第1回後半部をご参照ください)

 

  • 日高 貢一郎(ひだか・こういちろう)

大分大学名誉教授(日本語学・方言学) 宮崎県出身。これまであまり他の研究者が取り上げなかったような分野やテーマを開拓したいと,“すき間産業のフロンティア”をめざす。「マスコミにおける方言の実態」(1986),「宮崎県における方言グッズ」(1991),「「~されてください」考」(1996),「方言によるネーミング」(2005),「福祉社会と方言の役割」(2007),『魅せる方言 地域語の底力』(共著,三省堂 2013)など。

編集部から

皆さんもどこかで見たことがあるであろう、方言の書かれた湯のみ茶碗やのれんや手ぬぐい……。方言もあまり聞かれなくなってきた(と多くの方が思っている)昨今、それらは味のあるもの、懐かしいにおいがするものとして受け取られているのではないでしょうか。

方言みやげやグッズから見えてくる、「地域語の経済と社会」とは。方言研究の第一線でご活躍中の先生方によるリレー連載です。