今回はNHKが2000年から2001年にかけて放送した『21世紀に残したいふるさと日本のことば』を見直します。そのときに各局で集めたふるさとことばの集計データがあります。各県の第1位のことばを見ているうちに、「おおきに」〔ありがとう〕が近畿地方の多くの府県で1位であることに気づきました。他の地方では、具体的な物や動き、感情をさすことばが1位になります。たとえば「あずましい」〔心地よい、英語のcomfortable〕が北海道と青森県で、「おっぺす」〔押す〕が埼玉県と千葉県で、「よだきい」〔大儀な、面倒な〕が大分県と宮崎県で1位です。
第1位だけだと単語の数が少なすぎます。第5位までの単語を集計しました。都道府県ごとに5語のうち何語があいさつなのかを計算したら、見事な結果が出ました。6地方に分けて、平均値を示します【グラフ】。近畿地方は2.9。つまり1県5語のうち3語近くがあいさつです。「おおきに」以外に「まいど」「おいでやす」「おはようお帰り」〔行ってらっしゃい〕、「よろしゅうおあがり」〔お粗末さま=ご馳走さまへの返事〕などが上がっています。
日本の両端は柱が少し高く、東北・北海道は5語のうち平均1.1語、九州は平均0.8語です。東北・北海道は「おばんです」〔今晩は〕、九州は「ありがとう」にあたる言い方が上がっています。しかし関東は平均0.3語で、上位5語の中にほとんどあいさつが出て来ません。方言というと人の心を結び付ける働きを思い浮かべる関西人と、(標準語・共通語を基準に)事物をさす単語の違いを考える関東人との、違いが表れたとも言えます。もっとも、関東のあいさつは方言的特徴が少ないためもありますが。なお中部は平均0.8語、中四国は0.6語でした。
方言イメージは知的イメージと情的イメージに分けられます。情的イメージが高いのは東北地方と近畿、九州などで、あいさつの方言が上位になる場所と一致します。方言グッズも、日本の真ん中と両端に多く見られます。方言について情的プラスイメージを抱いている土地では、人に接するときのあいさつと方言が結びつき、方言グッズも多く作られると考えられます。方言はコミュニケーションの情的部分をになうのです。
関西のあいさつことばは、このシリーズでも何度か登場しています【写真】。方言グッズや方言看板などをたくさん集めると、規則性が見つかるのです(→『魅せる方言 地域語の底力』)。継続は力なり。
編集部から
皆さんもどこかで見たことがあるであろう、方言の書かれた湯のみ茶碗やのれんや手ぬぐい……。方言もあまり聞かれなくなってきた(と多くの方が思っている)昨今、それらは味のあるもの、懐かしいにおいがするものとして受け取られているのではないでしょうか。
方言みやげやグッズから見えてくる、「地域語の経済と社会」とは。方言研究の第一線でご活躍中の先生方によるリレー連載です。