2015年8月に北キプロスで方言学の国際会議(SIDG)がありました。日本は北キプロスを国家と認めていないので,公館もありません。IS(イスラム国)のテロや誘拐があっても保護を受けられません。幸いに平穏無事に終わりました。3年後の開催地は,会場ですぐに決まりました。バルト3国の一つ,リトアニアが引き受けてくれました。
国際会議の報告でも,「リトアニア言語研究所では方言について学校向けのシリーズ本を出している」と言っていました。方言区画に応じて方言の解説書を14冊,CD付きで出すそうです。以前にリトアニアの方言区画を記したチョコレートをいただきましたが,そのチョコレートは大まかなものでした(第67回「世界唯一の方言チョコレート」)。Genovaitė KAČIUŠKIENĖさんの発表資料をいただきました。【図1】が方言区画です。低地方言(赤,黄)と高地方言(緑,青)とに大分類されるそうです。首都ヴィリニュスは地図の右下で,高地方言の東部方言(青)に属しますが,西部方言(緑)の影響も大きいとか。
【図2】にヴィリニュス編の表紙を示します。これが14冊出そろうわけです。
人口300万人(静岡県ほど)の国で,方言解説書14冊の市場があるか,心配です。周囲の大国の圧力で,独立の国家を持つのに苦労した国です。リトアニア語の出版が禁じられた時期もありました。旧ソ連の自治共和国でしたが,1991年に独立して,今はユーロ圏です。国民の愛国心,国語愛が旺盛なのは当然です。だからこそ国家予算による企画が出るのでしょう。
方言の扱い方は,国家によって,経済規模によって,違います。日本は,長い間ほぼ言語領域に応じた国家領域を保ってきました。人口も1億規模で経済力が豊かです。方言の概説書も民間の出版社で地方別,県別に出しています。方言グッズも各県にあることが分かりました(『魅せる方言』)。日本方言研究会という組織があり,機関誌『方言の研究』も刊行されました。世界的にみても研究活動の活発な国です。
日本は,方言学の国際会議も引き受けます。方言学国際会議が二つあるうち,方言学方法論会議(Methods in Dialectology 16)が2017年8月7~12日に東京・立川の国立国語研究所で開かれます。2018年夏にリトアニアのヴィリニュスで方言学地理言語学国際会議(SIDG 9)が開かれます。北キプロスでは「日本の8月はベストシーズンですよ」と宣伝しておいたのですが,ジョークと思わなかった人がいたらどうしよう……。
Methods in Dialectology 16 at NINJAL, Tachikawa, Tokyo, 7~12 Aug 2017.
SIDG 9 (International Society of Dialectology and Geolinguistics), Vilnius, Lithuania 2018.