前回までは相手の話を受けて話を続けたり、自分の発話のなかで話を続ける際に用いられる表現を考察してきました。今回から新しい話題の導入に典型的に用いられる表現をみてみます。
話題を導入する基本はそのことをはっきりと前面に出して話し始めることです。日本語では、「…については、…について言えば」などと表現されます。すぐに思い出す英語の相当語句はspeaking ofでしょう。本辞典では項目としてはありませんので、三省堂コーパスからの用例を修正したものをあげてみます。
‘What are your inspirations for your songs?’ ‘Change all the time. Mostly books about politics at the moment.’ ‘Speaking of politics, do you plan on pursuing a career in it?’「歌詞はどのようなところからインスピレーションをえるのですか」「そのときそのときで変わりますが、現在はおもに政治に関する書物からです」「政治といえば、そちらの世界に入るということはお考えですか」
直前に出てきたことばをそのまま使って、「そのこと」について話題を誘導していくことが多いようです。上の例では、「政治」一般について、下の例では「ポピュラー音楽」一般について話題を発展させています。
《作曲活動について問われて》 ‘I don’t think we succeed most of the time, but occasionally I think we do make pretty good pop.’ ‘Speaking of pop, how about Supergrass?’「うまくいくことはほとんどありませんが、たまにかなりよいポップスができることがあります」「ポップスというと、スーパーグラス(イギリスのポップロックバンド)はどうお思いですか」
また、as forにも同様の使い方があります。次は本辞典からの引用です。
1 〈新しい話題を導入して〉A〈人・事・物〉については “Richard, I have to talk about something with you.” “Well, as for that matter, we will discuss it next week.” 「リチャード, ちょっと話したいことがあるのですが」「ああ, あのことなら, 来週きちんと話し合いましょう」.
ただ、speaking ofと比較すると、違いがあり、speaking ofは前出の語句をそのまま用いますが、as forの場合は、言い換えた名詞句を用いるのが基本となります。上の例では前述のことを‘that matter’で言い換えています。また、いくつか話題があって、初めの話題が一通り終わって次の話題に焦点を当てて話す場合にも用いられます。以下の例は三省堂コーパスからです。
‘Two questions: Does it bother you that you’ve never been nominated for the Akutagawa Prize? And two, where are you from?’ ‘Second question first: I was born in Hokkaido, but our family moved to Kobe when I was just two years old. So it’s difficult to answer. As for the first question, no, I’m not bothered at all.’「二つ質問があります。今まで芥川賞の候補者になっていないことについて気にされていますか。二つ目は、どちらのご出身ですか、ということです」「二つ目の質問から答えますと、生まれは北海道ですが、2歳で神戸に引っ越しましたので、どこ出身か答えにくいですね。最初の質問ですが、ちっとも気にしていません」
本辞典では2つ目の語義として、以下のように、「既出の内容と対照させて」をあげていますが、これも、父親のことを最初に、次に母親のことを順に述べていますので同類と言えます。
2 〈既出の内容と対照させて〉一方A〈人・事・物〉に ついては “What has become of your parents? Are they fine?” “Well, my dad is fine, still lives in the village. As for mom, she died five years ago.” “I’m so sorry.” 「ご両親はどうされていますか? お元気ですか?」「ええ, 父は元気です. まだ田舎で健在です. 母の方は, 5年前に亡くなりました」「そうでしたか」.
なお、三省堂コーパスではspeaking ofに英米の差がみられ、アメリカ英語のほうがおよそ5倍出現数が高くなっています。
ちなみに、話の途中で今までとは関係のない話題を持ち出すときに用いられる語句にby the wayがあります。
1 〈会話の途中で新たな話題を導入して〉それはそうと, ところで 《街角で偶然出会った友人に自分の近況を話した後で》 By the way, Tom, what are you doing here? ところで, トム, あなたはここで何してるの? / “Are you ready for breakfast?” “No, Mom. I have to make my bed first.” “OK, but hurry up. By the way, what do you want for lunch today?” 「もう朝ごはんにしてもいい?」「まだだよ, お母さん. 先にベッドを整えないと」「わかったわ, でも早くしなさい. それはそうと, 今日のお弁当は何がいい?」.
by the wayにはほかにもいろいろな興味深い用法があり、後日改めて取り上げる予定です。