方言使用には,観光客向けと地元向けがあります。観光客向けは,経済を反映したグッズやみやげ品,ポスターなどです。一方,地元向けは文化の継承のためとも言うべきもので,絵本やまんが,かるたなどです。若者世代(第98回,214回,328回)や子ども世代(31回,216回)が自らの地元文化を楽しみ,地域の結束力やアンデンティティを確認する働きがあります。
というわけで今回,紹介するのは,関西弁の絵本です。岡田よしたか著『はずかしがりやのバナナくん』(株式会社PHP研究所)【写真1】です。著者の岡田さんは,大阪生まれの絵描きさんで,絵も文も岡田さんによるものです。
この絵本は,地の文は共通語で,会話文は関西弁で書かれています。つまり,知的情報は共通語で,情的な会話は方言です。方言による会話によって,登場するバナナくんやくしカツのおじさんの気持ちが,生き生きと伝わってきます。
(画像はクリックで拡大表示)
「よっしゃ どんどん いくでー」【写真2】
「うわー,やったら できるねんなあ!」
「これも みんな くしカツさんの おかげや。 そうや くしカツさんも いっしょに うたお!」
といったぐあいです。
岡田さんからのメッセージです。
アニメなどを見ているとアクションも派手で,過激な内容が多いです。この絵本を子どもたちに読み聞かせて,大人も子どももいっしょになってジワッとクスッとくる静かなおもしろさを味わってほしいです。
「関西弁のアクセントやイントネーションが難しい」という声を聞くことがありますが,そんなときは,読み手は,出身地のことばやもっとしっくりくることばに置き換えて,読んでくださったらいいと思います。そうすれば話のニュアンスが子どもたちに伝わり,一層絵本が大好きになります。
絵本のなかでは,関西弁が「ジワッとクスッとくる静かなおもしろさ」に一役かっています。子どもたちが,読み聞かせの中で聞いた方言を,家庭内や友達との会話に使って楽しめば大成功です。なお,関西弁を使った絵本は,ネットで調べるとたくさん出て来ます。方言えほん,方言かるた(第33回),方言トランプ(第208回)などは,観光客向けというより,地元向け文化グッズと言えます。地元の方言で読み聞かせる絵本は,方言を通して郷土の文化を子どもたちに伝えます。
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