いわゆる木の実で、汁気たっぷりのものをBeere(漿果)といい、乾いたものをNuss(ナッツ)といって区別するのはヨーロッパに広くある習慣であることはよく知られている。ナッツ類は保存がきき、輸送が可能なので、日本にいてもかなり珍しい外国産のものを愉しむことができ、なじみのものが多いが、Beereの方はそうは行かないので、はやり産地に行かないと分からないようだ。
私などまだ子供の頃には、都会の住宅街でもあちこち近所の庭にスグリやユスラウメ、グミなどが植わっていて、良く実って色づいたやつを生け垣越しに失敬してもさして叱られもしなかった。むしろ調子に乗って食い過ぎると腹をこわすと、そちらで注意されたものだ。ドイツではHimbeere(キイチゴ、ラズベリー)やBrombeere(クロイチゴ)が、道ばたや駐車場の端に大きな茂みになっていたりする。もちろん季節になると実り放題だが、場所からしてあまり清潔そうでもないからか、誰もつまんでいく様子がない。私は喜んで賞味したが、勧めても家族は手を出さなかった。キイチゴ類はイラクサ風にトゲを持った蔓で絡みながら、ああ見えて結構憎々しげに太くなって繁茂するので、ドイツで昔は農地の境界によく植えたものなのだそうで、その名残であちこちの道ばたで見かけるのだという話を聞いたことがある。
あるときドイツでバスの中から、畑の真ん中に巨大なイチゴErdbeereがあるのが見えた。何事だろうと思って行ってみると、イチゴ農家の直販店だった。大きな箱に新鮮だが、サイズや形を揃えるなどということはおよそ考えたこともないような様子の不揃いなイチゴをぶち込んで売っている。洗いもせずそのまま口にすると、ほどよく冷たくて、おいしいなんてものじゃない。店番の女性もしきりとつまみながら売っていたが、こちらも家族でつまみながら帰る。そのほかに、HimbeereやBrombeereやJohannisbeere(スグリ)やStachelbeere(セイヨウスグリ、グズベリー)やKirsche(サクランボ)も箱詰めで売っていた。どれも新鮮でおいしかった。ドイツのあちこちで季節になるとこういう店を見かけた。もういいや、というほど子供たちに好物のおいしいイチゴやサクランボを食べさせてやれて、こちらもうれしかったものだ。