ドイツは昔は子供のしつけに厳しかったそうで、虐待まがいの扱いが当たり前だったとよく聞かされたものだが、十年前くらいから自分の子供を連れてドイツに滞在するようになると、ドイツも随分と子供に甘い国に変わったような気がする。
カフェに子供連れで入っても、昔は子供たちだけ別の席に座らせて一番安いものをあてがって静かに待たせておき、親たちは好きなものを食べたいだけ注文して楽しむ。子供が文句を言ったり不満そうな様子をするとすぐぶつ、などという風景が当たり前だったとドイツの教育に詳しいK先生にうかがったことがある。
それが、十五年くらい前に私がドイツ人の友人とその母親といっしょにカフェに入ると、若い親が小さい子を連れていて(これがそもそも昔はありえなかった)、甘やかし放題に甘やかし、小さな子供も店中を騒ぎまくる。私の友人の母親は、露骨に不愉快そうな顔をして、最近の若い親はしつけがなっていないと言う。けれども同じ頃別のドイツ人の母親は、形だけ厳しく子供を育てたって、ナチスが来るだけだってやっとドイツ人も気づいたわけですよ、などと言う。あの頃が世論の分かれ目だったのだろうか。
私の子供たちは五、六歳までほんとうにドイツで優しくしてもらった。一番印象に残っているのは、パン屋に行っても肉屋に行っても、必ずといって良いほど子供たちに何か「おまけ」をくれたことだ。パン屋で小さな菓子パンを持たせてくれるのはまだ分かるが、肉屋でハムをくれたのには驚いた。他の日本人からも同じような話を聞いた。レストランに行くと、ハリボーのグミ・ベアの小袋、チュッパチャップスなどをひょいと渡してくれたものだ。子供連れで行くからとレストランに予約を入れておくと、子供の席は小さなかわいい木の人形で飾ってあった。あの時は子供たちが昼間の外出で疲れて眠ってしまったので、結局大人だけでレストランに行ったのだ。記念にもらって帰ったあの人形は長いこと子供たちのおもちゃになっていた。