前回(ドイツ語の造語力(1))、ドイツ語の特徴として造語力の高さがあると述べた。
ドイツ語の造語方法には、一応の規則がある。単語どうしを組み合わせる複合では、たとえば
Haus 家 + Tür 扉 → Haustür 家の扉
Haustür 家の扉 + Schlüssel 鍵 → Haustürschlüssel 家の扉の鍵
のように「修飾部+主要部」となり、新しくできた複合語全体の意味に関しても、性や複数形の作り方に関しても、右側の単語が主要部となる。接辞を使った派生でも、たとえば
be-(接頭辞)+ fahren 運転する → befahren 通る
Haus 家 + -lich(接尾辞)→ häuslich 家の
のように、普通は接頭辞は品詞を変えることはないが、右側にある接尾辞は、新しくできた派生語の品詞を決める力がある。つまり、ドイツ語の造語に関しては「主要部は右側」という原則があるようだ。
ドイツ語は、造語力の高い言語である。しかしドイツ語とならんで実は日本語も、特に漢語を使えば、造語力が非常に高い言語の一つである。複数の単語を組み合わせた複合語は日本語にも数多くあり、また日本語話者ならばかなり自由に新しい複合語を作ることもできる。たとえば実際には存在しない「東京特許許可局局長秘書」などのように。
造語力の高さという共通点を持つドイツ語と日本語だが、複合語の作り方には違いもある。日本語には「修飾部+主要部」となる限定複合語と並んで、「連辞的複合語」と呼ばれる複合語も多い。たとえば「父母」「山河」など、このタイプの複合語は、どちらが主要部とも言えず、並列関係にある。
このタイプの複合語は、ドイツ語にも存在はするのだが、数は限られており、生産性も低い。たとえば日本語の連辞的複合語「父母」に対応する複合語を作ることはできず、
Vater 父 + Mutter 母 → *Vatermutter
別の単語 (Eltern「両親」) を使わなければならない。ドイツ語は造語力が高いとはいえ、何でもできるわけではないのである。
ドイツ語にある数少ない連辞的複合語としては、クラウン独和第4版には
schwarz 黒 + weiß 白 → schwarzweiß 白黒
などの他、州の名前(たとえば Schleswig-Holstein)などが掲載されている。これら以外は、あまり勝手に作って使わない方がよさそうである。