ドイツ料理といえば、アイスバインだのザウアーブラーテンだの、ことさら脂肪分の多そうな肉の巨大なかたまりがこってりしたソースに浸かっていて、申し訳程度の野菜の付け合わせが付いている、というイメージがある。我らが初代編修主幹の故濱川祥枝先生も、アイスバインが大好物であった。ところがドイツ人はもうこういう伝統的な料理を食べなくなったようだ。ガイドブックに載るような有名なドイツ・レストランを訪ねてみたら、店を畳んでいたという体験を何度もした。では家庭料理として食べているのかと思うと、どうやらそういうわけでもない。子育てを終えた世代の、あるドイツ人女性は、顔をしかめて首を振り、もう家じゃあ全然作らなくなったわね、と言った。
10年ほど前から、ドイツでも「ベッサー・エッセン」といって、食生活改善の機運が高まってきたのである。自分たちは太りすぎだ、これでは健康に良くないと、気づいたらしいのだ。ここでドイツ風野菜料理を開発普及していけばいいだろうと思うのだが、そうはならず、伝統的ドイツ料理は敬遠される結果となった。そういえば、昔はケーキにはたっぷりザーネをかけて食べるもので(アイスクリームにさえかけていたな)、ナイン・ダンケと言うと、ウェイトレスさんに怪訝な顔をされたものだった。これもほとんど見かけなくなってしまった。
かといって、ドイツ人たちが、こってりした料理が心底嫌いになったわけではなくて、奥さんがうるさかったり、新しいライフスタイルにがんばってなじもうとしているのである。このごろはドイツ人の夫に一生懸命「おふくろの味」を作ってあげるのは、国際結婚の日本人の奥さんだけよと、笑って話してくれた人もいた。