日本とドイツの料理の違いということになると、野菜の料理法がまず気になるところである。この点で伝えるのに困る料理用語に「あく」がある。
「灰汁」ならLauge(アルカリ液)であるが、料理でいう「あく」はこれとは違う。因みに「灰汁を抜く」にあたる動詞auslaugenは、料理では、おいしさの元であるエキスや栄養が抜けてしまう、という否定的な意味で用いるようである。
「あく」は肉類の煮物や吸い物では、微細な肉片のことで、汁を濁らせてしまう料理の大敵である。日本では、汁が沸騰する前に泡とともに表面に浮き固まってきたのを、オタマなどで丹念にすくい取る。ドイツ料理でも、いわゆるklare Suppeではこの種の小肉片をFlockeと呼んで気にし、これを除去して澄んだスープにするが、日本人のように料理の途中にちまちま除去しようとしないで、スープが出来た後でausseihen(漉す)ようである。
問題なのは、野菜の「あく」であるが、これにぴたりとあたる概念はドイツ語にないようである。どうやら、気にならないことはないが、我慢できる範囲の苦み、くらいに認識しているようだ。ホウレンソウのクリームの作り方を見ると、苦みが強くならない程度で、ホウレンソウのゆで汁で最後に風味付けをする(auslöschen)、なんてことが書いてあるから、あのホウレンソウのえぐみでさえ風味のうちなのだろう。それは間違っていないが。
だから、うま味だとか風味だとか、日本語で言えば今度は「あく」対して「出汁」という概念すらも、何とか通じるかもしれない。上のホウレンソウのゆで汁ではないが、ゆでたり蒸したりして野菜から出たWasserをうまく利用することが、ドイツ料理でも重要であるようだから。
しかし(こだわるようだが)ホウレンソウのおひたしは、以前にドイツ人に料理として認めてもらえなかった覚えがある。あんなクリームよりはうまい食べ方があることを見せたかったのだが、まだ材料の段階にしか見えなかったようなのだ。確かにあの時は鰹節もなかったし、半生のホウレンソウに醤油をかけただけだから、料理には見えなくて当然だったかもしれない。生野菜のサラダをふんだんに食べるようになったから、今のドイツでは違う反応があるだろうか。