シベリアの森で暮らす人びとは、周辺のさまざまな植物を利用します。家屋や燃料のために森で木材を調達したり、キノコやベリーを採集して食用にしたり、コケや木皮を採集して生活用品にしたりします。これから数回に分けて、シベリアの採集活動について紹介したいと思います。
筆者は今年(2019年)の8月下旬から9月上旬にかけてサハ共和国の首都ヤクーツクから車で1、2時間くらいの村に行きました。ちょうどキノコの良く取れる時期だったため、地元の方々にお願いして、キノコ採集に連れて行ってもらい、採集と調理の仕方を教えてもらいました。
午前8時にバケツとナイフを持って、徒歩で村のすぐ近くの森へ向かいました。8月末でしたが、この村は北緯60度以上に位置するため、すっかり秋の陽気です。朝の森はひんやりと涼しく、シラカバはすでに紅葉していました。この日は朝から晴天でしたが、前日に雨が降ったため、木の葉や幹が濡れていて、土も湿っていました。キノコ採りには良い天気です。森では放牧中のウシに出会いました。ウシたちも草以外にもキノコを探して食べるため、キノコ採集に行くと、しばしばウシに出くわすそうです。その飼い主もバケツを持っていました。どうやらウシを迎えに行きながら、彼女もキノコ採りをしていたようです。
さまざまな種類のキノコに出会いましたが、地元の方曰く、採集対象は主にマセリョーナク(маселёнок)一種です。日本語ではヌメリイグチといいます。なめこのような粘液で傘が覆われています。採集の仕方は、まず、ナイフで柄(キノコの傘を支える部分)の下のほうを切り取ります。そしてすぐにキノコの状態を調べます。綺麗なものは、虫や汚れのある傘の周囲だけをナイフで取り除きます。実際にやってみましたが、粘液で滑ってしまい、上手く切ることができませんでした。
育ちすぎているキノコは、傘を真っ二つに切って、中のほうまで確かめます。おいしいものは中の色がクリーム色です。色が黒や赤になり、すきまや穴などの鬆(す)があるものは採集しません。そういったものは、そのまま地面に捨てるのではなく、倒れている木や木の切り株に置いておきます。そうすると後からリスがやって来て食べるそうです。今回は、実質二人で、採集場所まで往復する時間を含めて2時間弱でバケツ半分ほどになりました。
採集したキノコを食べることにしました。まずはキノコの下処理です。汚れとぬめりを取り除いてから調理します。タライにキノコを入れて、ぬるま湯を注ぎ、ゆすいで湯切りします。これを数回繰り返してから一口大にナイフで切り、さらに鍋で20、30分くらい茹でます。こうするとほとんど粘液がなくなり、褐色から灰色になります。当初、昼ごはんにしようと思いましたが、下処理だけでお昼を過ぎてしまいました。
さらに食べるまでに時間と手間がかかりました。地元の方に家庭菜園でジャガイモとニンジンとディルを収穫して分けてもらいました。それから、ジャガイモを茹でてから、採集したキノコ、ニンジン、タマネギと一緒に油で炒めました。味付けは塩とディルだけです。キノコは淡白な味ですが、独特の少しぬめりの残る食感と風味があっておいしかったです。一生懸命調理しているうちに、朝採集したキノコは、結局、夕食になりました。大きな鍋いっぱいに作りましたが、4人ですぐに完食しました。
夢中になってキノコを探してずっと下を見て歩いていると、どのくらい、どちらへ歩いたのか、よく分からなくなります。そうして気持ち良い汗をかき、さらに長いこと調理をして、お腹が空っぽになったところで、やっと食べることができました。タマネギ以外はどれも地元の採れたての食材です。北の大地が育てた食材をとてもぜいたくなかたちで味わいました。
ひとことハンティ語
単語:Нын хуԓта?―Мин толәх акәтты йӑңхԓәмән.
読み方:ヌィン フルタ?―ミン トラフ アカトゥイ ィアンフレメン。
意味:あなたたちどこへ?-私たちはキノコを採りに行きます。
使い方:ハンティもキノコ採集します。ハンティ語で「キノコ」をтоләх(トラフ)といいます。