シベリアは夏でも寒いというイメージがあるかもしれませんが、実際には夏は気温が上がり、夏らしい風景になります。シベリアの夏は短いですが、その短い間に雪がなくなり、樹々の緑が濃くなり、花が咲き、ベリーが実り、動物は肥え、はっきりとした季節が感じられます。例えば、私が通っているオブゴルト村の夏の気温は、10度~25度くらいです。年によっても大きく異なり、日中は30度くらいまで上がることもあれば、氷点下になって雹(ひょう)が降ることもあります。ただし、シベリアの気温と一口に言うことはできず、気温は場所によって多様です。
北極海に面した凍土が広がる地域もあれば、モンゴルや中国、中央アジアに近いステップ地帯もあり、また標高の高低によっても気温は大きく異なります。さらに、風の有無や湿度によっても体感する温度は異なります。現地の人々は、毎年の気象の変化に柔軟に対応しながら生業(せいぎょう)活動を行い、暮らしています。
前述した通り、年によって毎年気温がかなり違いますが、そうした中でも異常と言えるような気温になることが近年多発しています。今年の夏は局所的に非常に暑くなったところがありました。冬季にはシベリア中でも気温が下がる場所として知られるサハ共和国のベルホヤンスクでは、6月に38度を記録しました(注1)。そのほかの地域でもさまざまな異常な気象が頻繁に発生しています。昨年の夏には、シベリア各地で大規模な森林火災が起こりましたが、なかなか雨が降らなかったため長期化しました(注2)。また、2016年の夏にはヤマル半島で気温が通常より上がり、凍土が融け、凍土に眠っていた70年以上前の炭疽菌が露出し、炭疽症によりトナカイが大量死し、人間にも感染して死者を出しました(注3)。今年の夏にはノリリスクのニッケル工場から軽油が川に流出しましたが(注4)、これは気温上昇による凍土の地盤が弱くなったことが原因と推察されています(注5)。
こうした異常気象だけでなく、地球規模の気候変動の影響も懸念されています。地球温暖化は、シベリアだけでなく北極域の海氷減少や永久凍土・氷河の融解が加速させ、自然環境や生態系、人々の生活に大きな影響を与えています(上記の事例が気候変動の影響か異常気象の影響かという区別は難しい場合もあります)。こうしたことは、北極域の問題だけではありません。北極に浮かぶ氷が融けることにより、新たな北極海航路の利用や地下資源開発、漁業の拡大といった経済的な影響も見込まれています。さらに、昨年アメリカのトランプ大統領がグリーンランドの購入構想について発言したように(注6)、国際政治や軍事にも今後影響を与えていくと予想されます。
こうした気候変動や異常気象は、北極域の先住民をはじめとする現地の人々の暮らしにどのような影響を与えているのでしょうか。次回は、ハンティを事例に、彼らがどのように環境変化を受け止め、日常を暮らしているのかについてお話しします。
ひとことハンティ語
単語:Пәмащипа!
読み方:ペマシッパ!
意味:ありがとう!
使い方: 感謝を伝える言葉ですが、実際にはあまり使われていません。筆者が「ありがとう」や「ごめんなさい」という言葉を頻繁に使っていたところ、年配の方に「私たちはお互いに有難がったり、謝ったりしない。そういうのはやめよう」と教えられました。これがどのような意味だったのか、まだまだ探っているところです。
[注]