ソウルとその近郊では、看板には、漢字使用がところどころで見つかった。ベトナムと違って、「忠永빌딩」(bil ding:ビルディング)など、韓国語自身を表記するものも散見される。固有名詞の漢字表記はしばしば見受けられるが、意味まで意識されることは日本よりも稀だそうだ。また、1つの建物の上部と1階とに、2種類のハングルの間に「美」が出てくる(写真)。整形外科の名と美容室の店名だが、音訳なのだろうか。造語で、韓国語としての意味は感じられず、とくにかわいいとも感じないそうだ。「美」はアメリカを指す字としても、韓国でもなじみ深い漢字となっている。
新論
地下と路上(漢字は小さい字で)の看板(写真)に見た。ハングルで見たときに、もしやと思ったとおり、3字目は、漢字義に基づく韓国の国訓で峠に近い意味。地下鉄の駅は、金大中大統領時代からのものか、漢字を小さめに示すものが多いが、旧字体のみである。
固有名詞以外ではどうだろう。
好
これは、通常の自然な自国語を表記したものというよりも、明らかに記号的な用法だ(写真)。
定礎
筆字風だが、書きぶりがややぎこちなくも感じられるか(写真)。デザインに好みが現れているのかもしれない。ベトナムではこのたぐいの書風がよりたくさん散見された。なお、この2字を彫り込む習慣は、日本から入ったものだろうか。
両替優 爲替優待
銀行で貼り紙に見かけた(写真)。
交
駅構内においても、日本語でもフォントが韓国式になっているケースが見受けられた。次の例は、地下鉄カードの機械の画面に、日本語を選択したときに出てきたものであった(写真)。
駅では、随所に、「入口」「出口」という表示もある。この両語は、これらの意味で、和語から漢字表記を経て、韓国語では音読みされている(和製漢語といえるか)。中国語にもなっており、汎用性の高い表示だ。
ハングルと漢字、ローマ字に交じって、駅の改札口では「○」「×」という記号による表示も目立った。日本でも大阪など西日本にとくに目に付く表示と類似する記号による表現である。韓国人の児童や日本人には意味が分かりやすい。
○(丸)を意味するトングラミ(第36回参照)は、動詞から名詞になったものだそうで、カメラ(のボタンか)にも使うとのこと。一方、「×」のカセには年代差があるそうで、50歳代の方は使うそうだが、40歳くらいの方によれば、「只今」(チグム いま)は「エックス」しか言わないとのことだ。テレビのクイズ番組では、○か×かに分かれて、と指示する場合には、「オー」か「エックス」に分かれてと、使っているそうだ。
温泉マークが建物の壁面に散見された(写真)。温泉での使用は、この日本発と考えられる(ドイツ起源とも)マークではなく、新しくデザインしたカラーの温泉マークを用いるようにと、法律で禁じられたのではなかったか、と思うが、どれも「モーテル」のようだったので、使用は変わらずに認められているのだろう。
自動ドアには、ボタンに「自動」と印刷されていた。日本製のものに、ハングルを足し込んだものだろうか。最後に、看板ではないが、街中で見かけた段ボールに次の例があった。
身土不二
筆字風で、これはハングルでは別の文が書かれていた(写真)。
韓国から来た留学生によると、今でも農産物を入れる段ボールのほか、レジ袋、包装紙などにこの語が漢字で書かれていることがしばしばあるが、これをスローガンとした運動自体があまり注目されることはなくなってきているそうだ。