沖縄では、土産物店の中に、「魔除け獅子(シーサー)」と書かれたものがあった。このルビは地域音だ。シーサーと獅子とは別の語と認識している人もいた。国際通りでは「波布蛇箱 HabuBox」という店があった。ハブには「飯匙(イ+青)」という表記もあり、台湾語からとされることもある。
この地では、当たり前のことだが「琉球」の2字をあちらこちらで目にする。また、「本格琉装」ともあり、1字に略すことができるようになっている。「琉球」は、中国でかつて台湾などを含めた称であり、「流求」などとも書かれていた。何らかの語に漢字を当て、後に玉偏で飾ったものだろう。「琉」は子の名に用いたいとしてこの地から強く要望され、裁判を経て人名用漢字に入ったものだ。今では、本土でも万葉仮名風ながらも人気を博しており、男子の新生児の命名使用漢字ベスト20に食い込んでいるようだ。
沖縄に来ることを「来沖(おき・チュウ)」と言うことがあるなど、「沖」に音読みが現れる。沖積世くらいしか思い浮かばない。島々ではもっと、個性的な字が使われていそうだ。すでに15世紀には、漢字平仮名交じり文が公用されていて、さらに清朝の文献資料には「辻」「粂」などの日本製漢字を用いた琉球王国の地名がときに読みが漢字で付されながら記録されていた。
ここの店では、「伊勢海老」「クルマエビ」、「そば」(ソーキソバ)となっていて、「蛯」や「そば」の変体仮名はこの南方の地ではさすがに見られない。そもそもそば屋には、本土のような暖簾も見かけない。看板もどことなくアメリカ風のものがある。「やんばるの杜」と、「杜」の字は意外にもここでも見かけた。市場では、原色の見たことのない魚が売買されている。
「駐車場では御座いません」、「御協力!!」、どことなくこちらの方の少し高めの明るい声が聞こえてきそうな表記に見える。「上等」という漢語も、西日本や年配層では日常的に使われるが、ここでは一層よく使われている。長音符(音引き、近頃は「伸ばし棒」とも)の「ー」を「~」(ニョロと呼ぶ人も)に変えた表示も、この地にはなぜかよくマッチする。「昇龍」は中華料理店名としてはどこにでもありそうだが、ここで見ると何かが違う。メニューには「熱々」はもちろんだが、気候が熱いせいか「冷々」も見られた。
中国から伝来した独特の数字「蘇州碼」(すうちうま)が主に帳簿の記録に用いられた。本州でも、帳簿には符丁が店ごとに発達していた。与那国島では「カイダー文字」という素朴な象形文字も用いられていて、最近研究がなされるようになってきた。そこではほかにも、家判(ヤーハン)なども見られ、漢字との関わりの有無、強弱など興味が尽きない。その先はもう台湾となる。