日本で一度お会いしていた中国人の先生が意外なことに同い年であると分かった。相当上だろうと見ていたのだが、外国人に限らずそういうことが増えてきた。
発表で話す中国語が明らかに「郷音」の人たちがいる。ことに寧波(ニンポー)など、独特な発音で有名で、同じ呉語とよばれる方言に属するが、「寧波の人と話すくらいなら、蘇州の人と喧嘩した方がましだ」といった諺まであるそうだ。院生の「ニーハオ」も、声調がとても低くて、他の地の人たちがからかっていた。若い人でも意外と訛りが残っている。北京師範大に、わざわざ普通話を学びに来ている人もいるそうだ。中国では、大学教員になる際にも、普通話の力について点数まで付けられ、審査されるのだそうだ。「方言萌え」なることばさえも流布する日本では考えにくい状況にある。
「めちゃくちゃ訛っていた、笑いたくなる」と中国の東北地方出身の学生についての声もあった。東北のことばは北京語よりも標準的と言われるが、広いこともあって常にそうとは限らないようだ。
広東語のような特異な地域漢字(列)はほとんどないが、北京の人たちにも独特な訛りがある。バスを取り仕切る20歳くらいの女性の車掌が、「後辺児」、「ホウバール」と大きな声で言った。「hou4 bian1 ホウビエン」がer化して、「ホウビアル」となり、さらに口語の発音に変わったものだった。同行してくれる女性は、これにも「頭が痛くなる」という。トリリンガルの彼女は、韓国でもソウルのことば以外はだめだそうで(逆に釜山の人からするとソウル方言は女っぽいそうだ)、テレビの「方言彼女」なども日本らしい価値観らしい。そして、香港よりも台湾の方が発音が正しいという。
厚い予稿集が3冊もあり重たい。目次とページとで、ズレが生じているのは、これだけたくさんの原稿が並べられていればまあ仕方ないことだろう。カメラマンも、座席の前を普通に通る。この大陸の地では、日本があれこれと気にしすぎなのか、とも思ってしまう。狭い部屋で発表中に携帯電話が鳴り響く。そのまま話し出す人もいた。
地名漢字についても発表があった。「湾」の「さんずい」が「土」に替わった方言漢字が、南方で小さな地名にけっこう使われているのだ。規範化の波と、習慣の根強さが交錯している。中国でも、こうしたものへの関心があることに共感する。
概して地域文字には、共時的にみると、語との関係は、
1 普通名詞や動詞など非固有名詞を表記
2 1+固有名詞を表記
3 固有名詞だけを表記
という3種が存在している。
通時的(歴史的)には、1から3へ、3から1へと動くものも見いだせる。名字にも使われるものならば、人とともに他の地域へより大きく移動する可能性をもつ。
参加者に韓国からの研究者が多いため、中国語の後に韓国語訳が付く。拍手のタイミングが難しい。韓国語は、座席で隣の人とひそひそ話をする際に、濃音は適しているのかもしれないが、激音は、さすがに響く。中国語にも有気音があるが、それよりも強く聞こえる。こちらでは、そもそもそういう時でも無声音ではなく、声に出してわりときちんと話すようで、それもほとんど気にならないようだ。