タイプライターに魅せられた男たち・番外編第23回

タイプライター博物館訪問記:菊武学園タイプライター博物館(19)

筆者:
2016年7月28日

菊武学園タイプライター博物館(18)からつづく)

菊武学園の「Featherweight Blick」
菊武学園の「Featherweight Blick」

「Featherweight Blick」は、ブリッケンスデアファーが1906年から1919年頃にかけて、コネチカット州スタンフォードで製造していたタイプライターです。「羽のように軽い」(Featherweight)と銘打っていますが、印字機構は「Blickensderfer No.5」「Blick No.7」と同様、タイプ・ホイール機構なので、かなり重たいものです。「羽のように軽い」のは、筐体の素材がアルミニウムで出来ており、マシンを持ち上げる際に(比較的)軽いだけであって、キータッチが軽いわけではないのです。

菊武学園の「Featherweight Blick」のタイプ・ホイールと銘板
菊武学園の「Featherweight Blick」のタイプ・ホイールと銘板

菊武学園の「Featherweight Blick」(製造番号164396)の銘板には、「9 & 10 CHEAPSIDE, LONDON. MADE IN U.S.A.」と記されており、元々はイギリス向けの輸出モデルだったと考えられます。タイプ・ホイールには84個(28個×3列)の活字が埋め込まれていて、タイプ・ホイールがプラテンに向かって倒れ込むように叩きつけられることで、プラテンに置かれた紙の前面に印字がおこなわれる、という点は「Blickensderfer No.5」や「Blick No.7」と同じです。菊武学園の「Featherweight Blick」のタイプ・ホイールでは、上の列に、小文字の活字がzxkg.pwfudhiatensorlcmy,bvqjの順序に、上から見て時計回りに埋め込まれています。真ん中の列には、大文字の活字がZXKG&PWFUDHIATENSORLCMY?BVQJの順序に埋め込まれています。下の列には、記号や数字の活字が“()-%/⅛¼⅜1234567890½⅝¾⅞£;@’:の順序に埋め込まれていて、分数が1/8刻みになっているのが特徴的です。この「Featherweight Blick」のキー配列と同じ順序であり、上段のキーほど、タイプ・ホイールが大きく回転する仕組みになっています。大文字はキーボード左端の「CAP」キーを、記号や数字は「FIG」キーを、それぞれ押すことで印字され、タイプ・ホイールの高さが変わる仕掛けになっています。

キーボード左端の「CAP」と「FIG」キー
キーボード左端の「CAP」と「FIG」キー

菊武学園の「Featherweight Blick」には、右側面にも銘板があって、ブリッケンスデアファーのアメリカ特許が記されています。ただ、「Featherweight Blick」の発売が1906年であるにもかかわらず、最下段の特許は1892年4月12日です。しかも、銘板の右下には、ペーパーホルダーの留め金が上から取り付けてあって、銘板が一部読めなくなっており、雑な仕事の印象を受けます。また、菊武学園の「Featherweight Blick」は、筐体の下部がアルミニウム製ではありません。本来「Featherweight Blick」は、筐体全体がアルミニウム製のはずであり、その点で疑問が残ります。あるいはリストア時に、「Blickensderfer No.5」などの部品を使いまわした可能性が、かなり強く感じられます。

菊武学園の「Featherweight Blick」の右側銘板
菊武学園の「Featherweight Blick」の右側銘板

筆者プロフィール

安岡 孝一 ( やすおか・こういち)

京都大学人文科学研究所附属東アジア人文情報学研究センター教授。京都大学博士(工学)。文字コード研究のかたわら、電信技術や文字処理技術の歴史に興味を持ち、世界各地の図書館や博物館を渡り歩いて調査を続けている。著書に『新しい常用漢字と人名用漢字』(三省堂)『キーボード配列QWERTYの謎』(NTT出版)『文字符号の歴史―欧米と日本編―』(共立出版)などがある。

https://srad.jp/~yasuoka/journalで、断続的に「日記」を更新中。