今週のことわざ

異端(いたん)

2007年10月22日

出典

論語(ろんご)・為政(いせい)

意味

正統でない考え方・行き方。「端」は、はし。正統の立場からみて、他の一端にあるという意味。

原文

子曰、攻乎異端、斯害也已。
〔子(し)(いわ)く、異端を攻(おさ)むるは、斯(こ)れ害のみ。〕

訳文

孔子(こうし)が言われた。「正統でない学問・思想を研究しても有害なだけだ。」

解説

通常、「異端を攻(おさ)むるはこれ害のみ」という一句で用いる。孔子(こうし)は自分の奉ずる儒家の教えが学問・生活規範の本道と考えていたので、それと異なる別の一派を別の端にいるものと考えていた。この考えを具体的に述べたのは『論語(ろんご)』に注をつけた南宋(なんそう)の朱熹(しゅき)である。「異端というのは聖人の道ではなくて、反対の側(がわ)に立っているものである。楊子(ようし)・墨子(ぼくし)たちがそれである。(異端とは聖人の道に非(あら)して、別に一端を為(な)す。楊・墨の如(ごと)きはこれなり。〔異端、非聖人之道、而別為一端。如楊墨是也〕)」<『論語集注(ろんごしっちゅう)』>
ただ、孔子がはたして楊子(=楊朱(ようしゅ))・墨子(墨翟(ぼくてき))を自分の説の反対者と考えていたかどうかは明らかでなく、これは儒家正統論(=道統(どうとう))が確立した宋学(そうがく)の時代に主張されたものと思われる。孔子はもう少し広い意味で、自分の考えと反する思想・行き方を否定したものであろう。また本文の読み方にも異説があり、通常は[原文]のように読むが、「異端を攻(せ)むれば、ここに害已(や)まん(=異端の説を攻撃すれば、害となるものを根絶できる)」「異端を攻(おさ)むれば、ここに害已(や)まん(=異端の説《=反対説》を研究してこそ、学問の偏向という害がなくなる)」という読み方もある。[原文]のように「異端を学ぶことには害がある」と理解したのは朱熹のみである。しかしいずれにせよ、反対の立場に立つものを否定しようという考え方は共通している。「異端」という言葉は、『論語』の中にこの一か所だけしか出てこないので、孔子が何を異端と考えていたかは明らかでない。後には宗教上にも用いられ、カトリック教は、他教のことやローマ教会に属さぬ教えのことを異端といった。

筆者プロフィール

三省堂辞書編集部