タイプライターに魅せられた女たち・第81回

エリザベス・マーガレット・ベイター・ロングリー(6)

筆者:
2013年5月16日

オハイオ州の女性参政権運動団体を設立するにあたって、最初の総会を成功させるためには、いわゆるビッグネームを招聘すべきだ、とロングリー夫人は考えました。有名な女性運動家をシンシナティに呼んで、女性参政権について演説してもらうのです。ただ、シンシナティだけで、ビッグネームを呼ぶのは無理があります。ロングリー夫人は、シカゴのリバモア夫人に協力を仰ぐことにしました。シカゴとシンシナティで連続開催ということにして、ビッグネームを大都会シカゴの大会に呼んだ後、シンシナティにも来てもらう、という案を考えたのです。リバモア夫人からの返事には「9月15~16日にシンシナティで開催しなさい。スタントン夫人とアンソニー女史と私が出席する予定だ、と宣伝しなさい。きっと総会は成功します。恐れることはありません」とありました。

1869年9月9~10日、リバモア夫人に招かれてシカゴを訪れたロングリー夫人は、女性参政権大会に出席していました。この大会をリバモア夫人は、アメリカ中央部9州(イリノイ州・インディアナ州・アイオワ州・カンザス州・ミシガン州・ミネソタ州・ミズーリ州・オハイオ州・ウィスコンシン州)における女性参政権の、いわば決起大会だとみなしていました。ルーシー・ストーンやアンソニー女史も招かれていて、女性参政権について、それぞれスピーチをおこないました。200人以上の女性運動家たちが集まり、大会は大成功のうちに終了しましたが、しかし、スタントン夫人は、会場の図書館ホールに現れませんでした。

翌週の9月15~16日、ロングリー夫人は、シンシナティのパイクス・ミュージック・ホールで、オハイオ女性参政権協会(Ohio Woman Suffrage Assocation)の設立総会を、開催していました。ロングリー夫人は、オハイオ女性参政権協会の会長に選出されましたが、これを固辞し、カトラー夫人(Hannah Maria Tracy Cutler)が初代会長、ロングリー夫人は副会長となりました。ロングリー夫人のスピーチから、少し引用してみましょう。

ニューヨークのAERA年次大会での経験から、私たちは、数多くを試みるよりは、たった一つのことを成し遂げた方が、遥かに良いということを学びました。そして、シカゴの同胞たちは、その他の利益は全て脇に置き、ただ一つの権利、全ての政治的権利のもととなるただ一つの権利、すなわち、投票する権利、それを勝ち取ることだけを運動の目標と定めました。今日ここに私たちは、オハイオ女性参政権協会を設立するために集まっています。そのただ一つの目標は、文書と演説とを通じて、この国の全ての人々に、連帯の輪と共に広めていかなければいけません。あらゆる適切な手段を通じて、女性参政権運動を推し進め、わが政府を本当の意味で、本当の理想的な意味で、人民の政府としなければいけないのです。

さらに、ルーシー・ストーン、アンソニー女史、リバモア夫人などのビッグネームが、次々にスピーチをおこないました。しかし、スタントン夫人は、シンシナティにも現れませんでした。最終的に、オハイオ州の19の選挙区から一人ずつを、オハイオ女性参政権協会に代表として送る、という動議を全会一致で採択し、設立総会は大成功のうちに幕を閉じました。次回の総会は、会長カトラー夫人の地元クリーブランドでの開催予定となりました。

エリザベス・マーガレット・ベイター・ロングリー(7)に続く)

筆者プロフィール

安岡 孝一 ( やすおか・こういち)

京都大学人文科学研究所附属東アジア人文情報学研究センター教授。京都大学博士(工学)。文字コード研究のかたわら、電信技術や文字処理技術の歴史に興味を持ち、世界各地の図書館や博物館を渡り歩いて調査を続けている。著書に『新しい常用漢字と人名用漢字』(三省堂)『キーボード配列QWERTYの謎』(NTT出版)『文字符号の歴史―欧米と日本編―』(共立出版)などがある。

https://srad.jp/~yasuoka/journalで、断続的に「日記」を更新中。

編集部から

近代文明の進歩に大きな影響を与えた工業製品であるタイプライター。その改良の歴史をひもとく連載です。毎週木曜日の掲載です。とりあげる人物が女性の場合、タイトルは「タイプライターに魅せられた女たち」となります。