全国各地には、その土地の名所・旧跡や、代表的な観光スポットを、恰好のアングルから写した観光絵はがきがあり、旅行者は、旅の記念にそれを求めます。
そのユニークなバリエーションのひとつとして「方言絵はがき」があります。
いくつかのタイプがあり、①名所の写真を示し、方言でその観光ガイドをする《場面解説型》、②道での立ち話、他家を訪問した際の玄関でのやり取り、店での買い物風景などの場面を写真やイラストで描き、方言の会話でその土地の日常を表現する《会話展開型》、③代表的な方言の単語を挙げ、その語のニュアンスがわかるような場面を描く《一語説明型》、④代表的な方言の語彙を多数挙げる《語彙列挙型》、⑤漫画のシーンと顔の表情で方言語彙の意味あいを説明する《漫画表現型》、など、多彩です。①と②が最も一般的で、④はセットになったものの一枚として加えられていることがあります。
そしてこれらを4枚、8枚、12枚などを一組としてケース(袋)に入れ、『秋田のことば』『名古屋言葉』『土佐方言』などといった題がつけられ、ケースにはその土地を代表する風景や事物の写真、イラストなどが描かれています。
地域差が大きいのも特徴のひとつで、これまでに知りえた250点を超える方言絵はがきを見ると、多いのは東北(青森、岩手、山形、宮城)、東海(名古屋)、北陸(金沢、富山)、関西(京都、大阪)、四国(高知)、九州(博多、熊本、鹿児島)などですが、いずれも方言に特徴のあるところに集中していることがわかります。
よそからその土地を訪れた観光客を主な対象として想定し、いかにも遠くに来たと“旅情”を感じて、思い出のよすがとして買ってもらうことが主なねらいになっています。
ユーモラスな、遊びごころをもった観光みやげ、それが「方言絵はがき」だ、と言っていいでしょう。
ところが、ある時期、地元出身者を想定したものがありました。実は、戦時中の「兵士慰問用のはがき」に、この方言絵はがきが利用されていました。あすはどうなるかわからない戦場の最前線で、懐かしい故郷のことばで描かれた慰問のはがきを受け取った出征兵士たちは、どんな思いでこれを読んだのでしょうか?
かつては、全国各地で多彩な姿を見せた方言絵はがきでしたが、最近はめっきり少なくなりました。今も販売されているのは、青森県ぐらいではないかと思われます。もしその他の県で手に入るところがあったら、ぜひご教示ください。
なお、さらに詳しくは、日高貢一郎「「方言絵はがき」の研究 (1)」(『大分大学教育福祉科学部研究紀要』26巻1号、2004.4)をご覧ください。