PISAの読解力で出されているような問題をつくるのは難しいとされている。
そもそも現実にどのような問題が出されているのか、あまりにも情報が少なすぎて見当もつかないという“問題”があるのだが、そのことについて論じることは差し控えよう。これまでにも論じてきたように、PISAの読解力の問題が「欧米型の読解問題」であることは間違いない。「欧米型の読解問題」が「日本型の読解問題」とは大きく異なるために、“PISAの読解力で出されているような問題をつくるのは難しい”とされているのだろう。
今回は「欧米型の読解問題」のつくりかたについて初歩的なところを紹介することにしたい。「欧米型の読解問題」のつくりかたが分かれば、「PISAの読解力で出されているような問題」をつくることも可能になるはずだ。
ここで紹介する方法は、フィンランドの教材作法プログラムに基づくものである。“教材作法プログラム”などというとカッコいい感じがするが、ここで紹介する方法はフィンランドの小学校3年生がやっているものでもある。フィンランドの国語教育(正確には『母語と文学教育』という)では、子どもたちに問題をつくらせるのだ。
「なぜ?」の発問をつくろう
テキストは何でも構わないのだが、フィンランドの流儀では物語文を使う。物語文であれば、読解に特段の専門的な知識や経験を必要としないからである。ここでは芥川龍之介の「蜘蛛の糸」を用いることにしよう。
テキストを用意したら、その登場人物にまつわる「なぜ?」の発問をつくる。いや、登場人物にこだわることはない。物語の中のことであれば、何でも構わないから「なぜ?」の発問をつくる。できるだけたくさんつくる。物語の冒頭から末尾にいたるまで、徹底的に「なぜ?」の発問で埋めつくすのである。
「なぜ御釈迦様はひとりでぶらぶらお歩きになっていたのですか?」
「なぜ御釈迦様は蓮池の下のようすを御覧になったのですか?」
このように無意味と思われる発問でも構わない。答えようのない発問でも構わない。とにかくたくさんつくるのである。思いつくままにつくるのである。そのうちに意味のありそうな発問も出てくることだろう。
「なぜ御釈迦様はカンダタだけを救うことにしたのですか?」
「なぜカンダタは蜘蛛を助けたのですか?」
「なぜお釈迦様は蜘蛛を助けた程度のことでカンダタを救おうなどと考えたのですか?」
「なぜ御釈迦様はもっと確実な手段でカンダタを助けようとしなかったのですか?」
「なぜ蜘蛛の糸は切れたのですか?」
「なぜ極楽の蓮は少しもそんなことには頓着しないのですか?」
「なぜ?」の発問は、PISAでは「解釈」に分類される。ただ、「解釈」といっても、この場合は深く考えないほうがよい。「主題」などといったことにはとらわれず、とにかく「なぜ?」を発することが重要である。そうすることによって「物語の意外なところが重要であったことが分かる」可能性があるからだ。また、発問が発問の連想を生み、とてもおもしろい発問へと成長していく可能性もある。実際にやってみると、けっこう楽しいものだ。
小学生に発問づくりをさせる場合、フィンランドでは宿題にすることが多い。この場合も“できるだけたくさん「なぜ?」の発問を考えさせる”のであるが、「たくさん考えた発問の中から三つを選んで、その答えも考えましょう。学校に来たら、友だちに問題を出してみましょう」という課題にすることが多い。子ども同士でお互いに問題を出し合う。簡単な問題ではつまらないが、解答不能な問題や、解答に納得できないような問題でも困る。子どもたち同士のことであるから困るだけではなく、それなりの悶着も起きる。そういった悶着から、子どもたちは問題づくりの妙を学んでいくのである。