店の名前には、それがどういう種類の店であるかを示す部分がついています。「喫茶○○」といえば喫茶店です。「○○質店」といえば質屋さんです。これは当たり前ですが、ときには、ちょっとむずかしい二字漢語の添えられていることがあります。
喫茶店では、「○○茶房」「○○茶寮」などの名前があります。日常会話で「茶房」なんて口にすることはまずありませんが、店の名前には使われます。また、質屋さんは、地方によっては「○○質舗」と名のることがあります。ウェブの電話帳で調べると、「質舗」を使ううちの6割近くは大阪の店で、大阪を含めて9割近くは西日本の店です。
居酒屋にも、二字漢語を添えた名前がよくあります。「酒房○○」「酒亭○○」などがそうです。「酒亭」は、主要な小型辞書・中型辞書には載っておらず、見逃されていることばといえます。『三省堂国語辞典 第六版』では、以下の形で新しく収録しました。
〈しゅ てい[酒亭](名)〔文〕居酒屋(イザカヤ)。〔多く、店の名前に使う〕〉
店の名前に多く使う漢語としては、このほか、「花舗」(生花店)・「菓舗」(菓子店)などもあります。いずれも『三国』には載っています。
漢語だけではありません。日常生活では使わない英語が、社名や店名の一部としてふつうに用いられることがあります。最近よく聞かれる「○○ホールディングス」もそうです。「持ち株会社」のことですが、社名としてはもっぱら英語で言います。
「ケンネル」は犬小屋のことですが、日本語では単独では使わず、ペットショップに「○○ケンネル」という名前をつけています。英和辞書によれば、英語ではペットホテルの意味はあるようですが、ペットショップの意味にも使えるのでしょうか。
「エステート」も、日本語ではそれだけで使うことはありませんが、社名としてはわりあいおなじみです。財産・遺産・地所・所有権など、いろんな意味のあることばなので、いったいどんな仕事なのかと思うと、じつは不動産会社です。「エステート」も、『三国 第六版』に以下のように収録しました。
〈エステート(名)〔estate〕地所(ジショ)。〔不動産会社の名前にも使う〕〉
看板などに特有のことばは、街の中で見つかるものです。こういった例を漏らさないために、『三国』のことば探しは、路上でも熱心に行われています。