三省堂国語辞典のすすめ

その68 共振とは何か、実験して書いた。

筆者:
2009年5月20日

『三省堂国語辞典』の執筆陣は、あらゆる分野のことばの原稿を書いており、各分野の専門家に依頼することはありません(その61参照)。国語辞典は、「そのことばが一般の文章の中でどう使われるか」を、用例に基づいて記述するものだからです。

とはいえ、執筆者が「大根」なら「大根」の科学的な知識がないままに執筆しては、間違いを犯すおそれがあります。専門的な知識が必要な場合は、謙虚にそれを学び、十分に理解した上で書くべきです。

『三国 第六版』では、「共振」という項目を立てました。ところが、原稿を執筆する段階で、私は「共振」について「何か揺れる現象らしい」というくらいのことしか知りませんでした。物理学辞典を参照しても、「外から振動を加えると、ものが大きく振動すること」という以上の意味は読み取れません。

「要するに、巨人が外から家を揺すぶれば、中の家具や何かが激しく揺れるということだろう。当たり前のことじゃないか?」

と、私には思われました。何か特別の現象だという感じがしません。

そこで、共振の現象を、実際にこの目で確かめてみることにしました。実験方法を記したウェブサイトなどを参考に、次のような装置を作りました。

1メートルの物差しを用意し、その両端に長い糸と短い糸を垂らします。糸の先には、おもりとしてピンポン玉をつけておきます。

糸が静止状態
【共振の実験装置】

物差しを水平に持って、体を左右に揺らします。まず、ゆっくりと大きく揺らすと、長い糸に結んだピンポン玉が揺れ始めます。短い糸のほうに結んだ玉はそのままです。

長い糸が揺れている
【ゆっくり揺らすと…】

次に、体をやや速く揺らします。すると、こんどは、短い糸に結んだ玉が揺れ始めます。長い糸のほうの玉はほとんど揺れません。

短い糸が揺れている
【やや速く揺らすと…】

これは、私には衝撃的でした。同じ物差しに結んだ糸は、どちらも同じように揺れると思っていましたが、結果は違いました。長い糸、短い糸が反応する振動数(体の揺れる速さ)はそれぞれ決まっていて、その振動数になったとき、それぞれの糸が揺れるのです。

実験によって、しっかり理解できました。結局、「共振」の語釈は〈ある振動数の振動が外から くわわったとき、いっしょになって(大きく)振動すること〉となりました。

筆者プロフィール

飯間 浩明 ( いいま・ひろあき)

早稲田大学非常勤講師。『三省堂国語辞典』編集委員。 早稲田大学文学研究科博士課程単位取得。専門は日本語学。古代から現代に至る日本語の語彙について研究を行う。NHK教育テレビ「わかる国語 読み書きのツボ」では番組委員として構成に関わる。著書に『遊ぶ日本語 不思議な日本語』(岩波書店)、『NHKわかる国語 読み書きのツボ』(監修・本文執筆、MCプレス)、『非論理的な人のための 論理的な文章の書き方入門』(ディスカヴァー21)がある。

URL:ことばをめぐるひとりごと(//www.asahi-net.or.jp/~QM4H-IIM/kotoba0.htm)

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編集部から

生活にぴったり寄りそう現代語辞典として定評のある『三省堂国語辞典 第六版』が発売され(※現在は第七版が発売中)、各方面のメディアで取り上げていただいております。その魅力をもっとお伝えしたい、そういう思いから、編集委員の飯間先生に「『三省堂国語辞典』のすすめ」というテーマで書いていただいております。