この連載の中で「第1ページ目」という表現を使ったところ、編集部から「第1ページ」または「1ページ目」ではないかとお尋ねがありました。たしかに、新聞社のスタイルブックでも「第~目」は〈重複〉とされており、新聞記事の本文にはほとんど出てきません。
ただ、迷った末に、「第1ページ目」という原文はそのままにしてもらいました。これはこれで、一種のニュアンスをもつ表現だからです。
ある表現が認められるためには、昔から使われていること、また、その言い方が理屈に合っていることが確かめられれば十分でしょう。「第~目」はどうかというと、まず、古い例としては、江戸時代(18世紀)の『仮名手本忠臣蔵』に出てきます。
〈先づ一番に打ち上ぐるは大星由良助義金。二番目は原郷右衛門。第三番目は大星力弥。〉(岩波文庫版 p.114、文字遣い改める)
明治になると、二葉亭四迷『浮雲』に〈開巻第一章の第一行目〉とあります。この強調する感じは、私が「第1ページ目」で表したかったニュアンスと似ています。ほかに、夏目漱石・島崎藤村・三島由紀夫・司馬遼太郎・遠藤周作らの用例もあります。
次に、「第~目」という言い方は理屈に合うかどうかですが、「第~」と「~目」とは意味が微妙に異なるため、いっしょに使っても重複表現とは言いにくいと考えます。
意味の違いは、入れ替えができない例を考えると、よく分かります。
「借金を申し込んだところ、1回目は断られたが、2回目は貸してもらえた」
という文は、「第1回は断られたが……」とは言えません。「第~」は、全体で何回か(いくつか)あるうちの1つだということを示すのが主眼で、「~目」は、その時その時(または、それぞれの部分)の様子について言うのが主眼です。「第1試合」というと日程の一部であることを示す感じがし、「1試合目」というと「苦しい戦いでした」などと様子を表すことばが続く感じがします。「第1試合目」は両方のニュアンスを含みます。
『三省堂国語辞典 第六版』では、「第~目」という言い方を否定してはいません。「初(はつ)」の項目では、語釈に〈最初の。第一回めの。〉と使っています。そのほか、「一代雑種」「初刷り」などの項目にも「第~目」という表現があります。もう少し踏み込んで、「第」の項目で「第一回目」などの言い方について説明してもいいと思います。