大規模英文データ収集・管理術

第11回 「トミイ方式」の変遷・2

筆者:
2011年11月7日

(3) カード時代

「ノート時代」の数々の弊害から脱出し、次にたどり着いたのが「カード時代」です。この時代は、英文データを図書カード(タテ7.5cm、ヨコ12.5cm)に収集・整理していました。この時代は、今から約10年前に「コンピュータ方式」を採用するようになるまで約20年近く続きましたが、これこそが、まさに、「トミイ方式」の黄金時代でした。

最初は、市販の100枚綴り300円とか400円のカードを使っていましたが、その消費量がどんどん増えていきましたので、一度に10万枚単位で特注するようになりました。容れ物も、最初はお菓子やクッキーの箱に入れていましたが、数が増えるに従って容れ物を上下に積み重ねなければならなくなり、1個の中に1,500枚のカードを収納できる、1個7,000円のカードケースを購入し、その中にカードを収納するようになりました。今では、そのカードケースの数も220個になり、35万枚のカードを擁し、筆者の仕事場の中央に鎮座ましましています。

「カード方式」にたどり着いたとは言え、そこでもまた試行錯誤があり、最終的な姿に落ち着くまでには、以下のような変遷がありました。いずれの方式にしても、この「カード方式」が前回述べた「ノート方式」と決定的に違うところは、この「カード方式」は物理的な収納場所が必要になるということです。その収納場所というのが、上に述べたお菓子やクッキーの箱であったり、カードケースであったりするわけです。

(a) 複件一葉式
(b) 1件一葉式
(c) 複文一葉式
(d) 1節一葉式

それぞれの方式についての詳しい説明は後に譲りますが、ごく簡単に説明すると下記のとおりです。

(a) 複件一葉式

これは、「1枚のカードに複数の同種の英文データを記入する」というやり方です。前回述べた「ルーズリーフノート方式」の轍を踏まないように、末端単位の分類もかなり細かくして、1枚のカードには、なるべく同類のものを記入することに決めてスタートしました。しかし、記入した時は同種のデータだと思っていても、件数が増え、分類も細かくなっていくと、その中のあるデータは別のカードに移籍しなければならなくなってしました。例えば、「このカードには、前置詞 in を使った英文例を収納する」と決めて1枚のカードには in を使った英文例だけを記入して行ったのですが、それでも、やがてそのカードの中のデータを精査してみると、キーワードが in であることには変わりないのですが、意味や用法の違う in を使った英文例が混淆していることにぶつかってしまい、その中のデータをいくつかの別のカードに分けなければならない必要性にせまられることになります。
そこで、次の「1件一葉式」に切り替えざるをえませんでした。

(b) 1件一葉式

これは、「1枚のカードには絶対に1件の英文データしか記入しない」というやり方です。この方式だと、カードに空きスペースができ、もったいない気がしましたが、これに徹しました。この方式ですと、データの行き詰まりには直面しませんでしたが、暫く続けて行くと、対象収集項目が増えて行き、この側面から、また、新たな問題が発生してしまいました。それは、ある一つの文章の前後にある文章との連続性の途絶です。これには、以下に示すいくつかの理由があります。

○ 前の文章との関連性から
英文では、前の文章のある名詞を受け、いきなり It とか They 等で文章が始まることがよくあります。その時、その It や They が何を表しているかわからないと文章全体がうまく訳せないことがあります。そのため、1文だけで文章を収集しておくと、後々、その処理に困ることになります。これを回避するため、できる限り前の文章も一緒に収集しておいた方がよいことになります。

○ 前後の文章との関連性から
よく、英語は「同一文の中ではもちろんのこと、隣接した文の中でも、同じ言葉や言い回しを使うことは、筆者のインテリジェンスの低さを表す。したがって、できる限り、表現にはバライエティを富ませた方がよい」と言われています。「トミイ方式」では、この表現のバリエーションも収集対象になっていますので、この目的のためには、できる限り多くの前後の文章も一緒に収集しておいた方がよいことになります。

この「表現のバリエーション」にご興味をお持ちの方は、「技術英語構文辞典(富井篤著)」(三省堂)をご参照ください。「2.4 表現の変化と統一」(p.352からp.378まで)に詳しく書かれています。

○ 全体の文脈から
件(くだん)の言葉や言い回しが使われている文が、どのような文脈の中で、どのように使われているか理解するためにも、カードのスペースが許す限り、できるだけ多くの前後の文章も一緒に収集しておいた方がよいことになります。

このようないろいろな理由に促され、どうしても、複数の文を1枚のカードに収集する必要性に迫られてきます。そこで、行きついたのが、次に説明する「複文一葉式」です。

(c) 複文一葉式

これは、上にも述べたように、件の言葉や言い回しが使われている文に対し、その前後にある文章を、カードのスペースが許す限り、たくさん収集する方式です。そしてそれは、究極的には、「1つのパラグラフ全体を1枚のカードに収集する」ことにつながります。これを、仮に、「1節一葉式」と呼んだとしますと、この「1節一葉式」こそ、今から約15年前から、「コンピュータ時代」に入っている現在でも、脈々と流れている「カード方式」です。

(d) 1節一葉式

「カード時代」になり、「(c) 複文一葉式」に進化したころから、カードに手書きしていた時代から原稿をコピーし、それを巧みに処理する収集法が採られました。この「1節一葉式」は、プリンタによるコピーを抜きにしては、絶対にできない方式です。

ただ、この章は、「トミイ方式の変遷」について述べているところですので、この収集法については、後ほど、「カード方式」による「英文データの収集と分類・収納」(I) のところで詳しく述べることにします。

次回は、「(4) コンピュータ時代」です。

筆者プロフィール

富井 篤 ( とみい・あつし)

技術翻訳者、技術翻訳指導者。株式会社 国際テクリンガ研究所代表取締役。会社経営の傍ら、英語教育および書籍執筆に専念。1934年横須賀生まれ。
主な著書に『技術英語 前置詞活用辞典』、『技術英語 数量表現辞典』、『技術英語 構文辞典』(以上三省堂)、『技術翻訳のテクニック』、『続 技術翻訳のテクニック』(以上丸善)、『科学技術和英大辞典』、『科学技術英和大辞典』、『科学技術英和表現辞典』(以上オーム社)など。