タイプライターに魅せられた男たち・補遺

広告の中のタイプライター(87):Remington 25 Electric

筆者:
2020年8月27日
『Office Equipment & Methods』1966年3月号
『Office Equipment & Methods』1966年3月号

「Remington 25 Electric」は、レミントン・ランド社が1964年に発売した電動タイプライターです。レミントン・ランド社は、1955年にスペリー社の完全子会社となり、この時点では生産も販売もスペリー・ランド社がおこなっていましたが、タイプライターに関しては「Remington」ブランドを守り続けていたのです。

「Remington 25 Electric」は電動タイプライターですが、その印字機構はフロントストライク式で、プラテンの手前に44本の活字棒(type arm)が、扇状に配置されています。キーを押すと、対応する活字棒が電動で跳ね上がってきて、プラテンの前面に印字がおこなわれます。活字棒の先には、活字が2つずつ埋め込まれており、通常は小文字が印字されますが、シフト・キーを押すと活字棒全体が下がって、大文字が印字されるようになります。また、44本の活字棒のうち、右端の1本だけは着脱が可能です。出荷時は通常、「+」「=」の活字棒がセットされていますが、「§」「」の活字棒や、あるいは他の活字棒に、簡単に交換することができます。このため、対応するキーは「INT」(Interchangeable Type)と書かれています。

フロントパネルには、左側に「IMPRINT」ダイヤル、右側に「CARBONS」ダイヤルがあって、印字の濃さと強さを調節できるようになっています。ダイヤルの間にある4つのスイッチは、左から順に「SWITCH」(電源)「TAB CLEAR」(タブ解除)「TAB SET」(タブ設定)「MAR REL」(マージン・リリース)です。キーボードの右下にあるダイヤルは、インクリボンの黒赤を変更します。そのすぐ左上にある大きなキーは「RETURN」(キャリッジ・リターンと改行)です。印字やシフト機構だけでなく、キャリッジ・リターンも、改行も、タブ機構も、バックスペースも、全て電動でおこなわれます。ただし、キーボード左端に見える大きなハーフ・バックスペース・キーは、機械的にプラテン全体を半文字分だけ戻すもので、電動ではありません。

上下の広告に見える「Remington 25 Electric」のキーボードは、いわゆるQWERTY配列です。キーボードの最下段は、両端にシフト・キーがあって、小文字側にzxcvbnm,./が、大文字側にZXCVBNM,.?が並んでいます。その上の段は、左端にシフトロック・キーが、右端に大きな「RETURN」があって、小文字側にasdfghjkl;'が、大文字側にASDFGHJKL:"が並んでいます。その上の段は、左端にバックスペース・キーが、右端に大きな「RETURN」があって、小文字側にqwertyuiop½が、大文字側にQWERTYUIOP¼が並んでいます。キーボードの最上段は、左側の離れたところにハーフ・バックスペース・キーがあり、小文字側に1234567890-が、大文字側に!@#$%¢&*()_が並んでいて、その右に「INT」と「TAB」が並んでいます。「2」のシフト側が「@」なのが特徴的です。

「Remington 25 Electric」の最大の特長は、キータッチが非常が軽いことで、これをレミントン・ランド社は「UltraTouch」と名付けました。ところがその一方で、せっかく軽くしたキータッチを、わざわざ重く調整するような機構も「Remington 25 Electric」には準備されていて、「Personal Touch Control」と呼んでいたようです。

『Sports Illustrated』1967年10月9日号
『Sports Illustrated』1967年10月9日号

筆者プロフィール

安岡 孝一 ( やすおか・こういち)

京都大学人文科学研究所附属東アジア人文情報学研究センター教授。京都大学博士(工学)。文字コード研究のかたわら、電信技術や文字処理技術の歴史に興味を持ち、世界各地の図書館や博物館を渡り歩いて調査を続けている。著書に『新しい常用漢字と人名用漢字』(三省堂)『キーボード配列QWERTYの謎』(NTT出版)『文字符号の歴史―欧米と日本編―』(共立出版)などがある。

https://srad.jp/~yasuoka/journalで、断続的に「日記」を更新中。