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曲のエピソード
“歌い上げる”タイプのソウル・シンガーは数あれど、筆者がすぐさま頭に思い浮かべるのはパティ・ラベル(Patti LaBelle/1944-)である。もうだいぶ昔のことだが、彼女の来日公演を観に行った際に、ステージ上に寝そべりながらも、天にも届かんばかりの歌声を発していたのには本当に驚かされた。
ラベルはその前身をブルー・ベルズ(The Blue Belles)という。もともとパティを中心とした女性カルテットだったが、トリオになったのを機にグループ名を“ラベル”と改めた。その際のメンバーは、パティ、そして後にあのシュープリームスのメンバーになったシンディ・バードソング、加えて、ソロ・シンガーに転向したノナ・ヘンドリックスという面々である。ラベルに改名したのは1977年のことだが、じつは同グループ名でのヒット曲は1曲しかない。それが、今回採り上げた大ヒット曲「Lady Marmalade(邦題:レディ・マーマレイド)」である。なお、R&BチャートでもNo.1を獲得。彼女たちにとって、最初で最後の大ヒット曲だった。
この曲をクリスティーナ・アギレラ、リル・キムらによるカヴァー(2001年に全米No.1)によって初めて知った、という人も少なくないだろう。筆者はだいぶ前にこの曲の日本盤シングルを買い求めていたのだが、今から約13年前に再びこの曲が脚光を浴びて大ヒットした際に、思わずシングル盤をごそごそと取り出して聴き直してしまったほどた。が、じつはこの曲の歌詞についてそれほど深く考えたことがなく、ただ単に“セクシーな女性が男性を誘っている歌”だとばかり思っていた。ところが、いろいろと調べてみると、曲のタイトルにもなっている“Lady Marmalade”は春をひさぐ女性である、ということが判明し、改めてこの曲の奥深さを思い知らされるに至ったのである。
曲の要旨
褐色のお姉さん、いいわよ、その調子でどんどん男を誘いなさいよ。彼はニューオーリンズで通称マーマレイドという女に出逢ったの。彼女は彼に誘い掛けたのよ。ちょっとライトスキンの彼女はレディ・マーマレイド。彼女はフランス語で話し掛けてきたわ。「ねぇ、今夜、アタシといいことしない?」。彼女の誘いに屈した彼は彼女の部屋でなすがまま。ほら、まるでカフェオレの色みたいな彼女の肌はすべすべで気持ちいいでしょ。普段の彼は何事もなかったように日常を送っているけれど、眠りに就く時に彼女の面影にうなされて身悶えするのよ。
1974年の主な出来事
アメリカ: | ウォーターゲート事件絡みでニクソン大統領が辞任し、第38代大統領に同じ共和党のフォードが就任。 |
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日本: | 東京国立博物館でレオナルド・ダ・ヴィンチの「モナ・リザ」(ルーヴル美術館蔵)が展示され、連日、大勢の観覧者が訪れて長蛇の列を作り、社会現象になる。 |
世界: | ポルトガルでクーデターが勃発し(世にいう“カーネーション革命”)、サラザール独裁体制に終止符が打たれる。 |
1974年の主なヒット曲
The Way We Were/バーブラ・ストライザンド
Dark Lady/シェール
Bennie And The Jets/エルトン・ジョン
The Loco-Motion/グランド・ファンク
I Shot The Sheriff/エリック・クラプトン
Lady Marmaladeのキーワード&フレーズ
(a) soul sister
(b) give it a go
(c) Lady Marmalade
初めて聴いたのはいつのことだったのか記憶にないほど、この曲が耳にこびりついて離れないまま今に至っている。まだ英語の歌詞を理解できない子供の頃だったとは思うが、曲の雰囲気からして、何となく“いやらしい曲なんじゃないか”という雰囲気だけは感じ取った。何を言ってるのか解らないコーラス部分に加えて、曲全体に漂う妖しげな雰囲気に呑み込まれたような感覚だけは未だに忘れられない。
耳に残るのはコーラス部分だけではなく、本来 [mɑ́ːrməlèɪd] と発音するはずの“marmalade”が何故だかここでは“マーマライド”と発音されており、余計に耳に残るのだ。そしてそれこそが、この曲の狙い目だと気付くのは、ずっと後になってからのこと。英語の曲では、押韻のために本来の発音を無理やり変えることがままあるが、この曲に限って言えば、押韻のためにそうしているのではなく、リスナーの耳を惹きつけるために故意にそう発音しているのである。個人的には、タイトルにもなっているこの部分を従来の発音通りに歌っていたならば、ここまで耳朶を打つことはなかったのではないか、とさえ思う。
歌い出し部分にある(a)は、アフリカン・アメリカン女性のことである。この男性版は、ご存知のように“soul brother”である。(a)は、この曲の主人公である女性=春をひさぐ女性、即ちストリート・ガールがアフリカン・アメリカン女性であることを指しており、ある種の応援歌のような雰囲気を醸し出している。それほどメロディアスな曲ではないが、この歌い出し部分は聴く者の耳と心を鷲掴みにするのではないだろうか。もちろん、(a)はタイトルにもなっている“Lady Marmalade”を指している。そしてラベルの3人は、彼女に向かって「いいわよ、その調子! 頑張って!」とエールを送っているのだ。
自動詞でもあり他動詞でもある“go”は、じつは名詞でもある、ということを、改めて思い出させてくれるフレーズが(b)である。辞書で“go”の名詞的用法を引いてみると、「やってみること、試み」といった意味が載っており、そこから思い出されるのは、“give it a chance(=やってみる)”という言い回し。この曲では、レディ・マーマレイドから声を掛けられた男性の名前が“Joe”となっていることから、それと押韻するために“go”が用いられたものと推測される。ちょっと蓮っ葉な日本語に訳すなら、「アタシを試して(=アタシと遊んで)みない?」となるだろうか。
タイトルの(c)は曲の中で幾度となく歌われ、弥が上にも耳に残る。先にも述べたが、故意に“マーマライド”と発音しているせいで、その部分が耳から離れなくなってしまうのだ。その昔、英語では“マーマレイド”ではなく“マーマライド”と発音するのかと思い込んで辞書で発音記号を調べたことさえある。が、やはりここはこの曲特有の発音だと言うことを知るに至った。“marmalade”にはそもそも淫靡な意味はない。しかしながら、子供心にどこかしらそうした雰囲気を嗅ぎ取ったのは、その発音のせいかも知れない、と、今にして思う。