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曲のエピソード
シンガーとしてデビューする前から、夫ジェリー・ゴフィン(Gerry Goffin/1939-/夫婦は1968年に離婚)とソングライター・コンビを組み、多くのヒット曲を複数のアーティストに提供し、早くからソングライターとしての才能を開花させていたキャロル・キング。
この曲は、彼女の2ndアルバム『TAPESTRY(邦題:つづれおり)』(1971)に先駆けてシングル・カットされ、彼女にとって最初で最後の全米No.1ヒットとなった(全米チャートで5週間にわたって首位の座を死守/ゴールド・ディスク認定/アダルト・コンテンポラリー・チャートでも5週間にわたってNo.1)。この曲が大ヒットしたこともあり、『TAPESTRY』はアメリカ国内で驚異的な売り上げを記録し(全米アルバム・チャートNo.1/アメリカ国内だけで1千万枚以上の売り上げ)、全英アルバム・チャートでも堂々のNo.4を記録し、同国内でも100万枚以上を売り上げた。快挙と言う外ない。
この曲は、もともと『TAPESTRY』のオープニングを飾る「I Feel The Earth Move(邦題:空が落ちてくる)」のシングル盤のB面曲だったが、当時、多くのラジオDJたちが「It’s Too Late(当時の邦題:心の炎も消え/現在はカタカナ起こしに変わっている)」の方を気に入り、何度もエアプレイをくり返すうちに、リスナーたちの心を捉えて晴れてA面化されて大ヒットした。同シングルは翌年のグラミー賞の最優秀楽曲賞を、そして同曲が収録されているアルバムは最優秀アルバム賞に輝いた。
アンニュイなキャロルのヴォーカルと、優しいメロディのせいか、日本では“結婚式に最適の曲”などと言う人もいるが(実際にネット上でそう公言している人もいる)、それは大いなる勘違い。だいたい、タイトル(意味は“もう(関係を修復するには)遅過ぎる”)を見ただけでも、これが別れの曲だと察知して欲しいものだが……。むしろ、最近、静かなブームになっているという離婚式のBGMにこそピッタリの曲である。
年齢を重ねてもなお往年の美しさを保っているキャロルは、今も現役のシンガー。彼女のファンや、1970年代の洋楽愛好者、そして何よりも、彼女自身にとってこの曲は宝物のように大切なものなのである。
曲の要旨
あなたと一緒に暮らしてきたこの家の中の雰囲気が、以前とは明らかに違うわ。あなたと私、どちらかが心変わりしたのか、それともギクシャクとした今の関係をお互いに修復するのを諦めてしまったのかも知れないわね。何とかしてヨリを戻そうとしたけれど、もう手遅れだわ。今となっては遅過ぎるの。お互いの愛情がすっかり冷めてしまったみたいね。あなたとの暮らしはかつて心地好かったけれど、今のあなたを見ていると、私と一緒にいることに居心地の悪さを感じてるみたい。なのにまだあなたと一緒にいる私って、まるで道化師よね。もうこれ以上、ふたりで一緒に暮らすのは無理よ。今さら関係を修復しようと思っても遅過ぎるわ。あなたへの愛が冷めてしまったことを、もうこれ以上、隠し通せないの。
1971年の主な出来事
アメリカ: | 憲法修正第26条で、全選挙で18歳以上に投票権を与えることを決定。 |
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日本: | ハンバーガー大手チェーンのマクドナルドが日本の第1号店を銀座にオープン。 |
世界: | 中国の林彪副主席が亡命を企てるも、搭乗した飛行機が墜落して死亡。 |
1971年の主なヒット曲
One Bad Apple/オズモンズ
Brown Sugar/ローリング・ストーンズ
What’s Going On/マーヴィン・ゲイ
You’ve Got A Friend/ジェームス・テイラー
How Can You Mend A Broken Heart/ビージーズ
It’s Too Lateのキーワード&フレーズ
(a) pass the time
(b) try to make it
(c) something inside has died
今ではカタカナ起こしに変わってしまったが、アルバム『TAPESTRY』が日本でリリースされた当時のこの曲の邦題「心の炎も消え」は、実に的を射ていて、しかも詩的だったと思う。カタカナ起こしになった途端に、つまらなくなってしまった、と感じるのは、筆者だけではないだろう。但し、アルバムの邦題『つづれおり』は今も使われている。
この曲の主人公は、恋人同士もしくは夫婦である。が、夫婦のようにある種のヌカ味噌臭さ(?)が歌詞から全く垣間見えてこないためか、ここに登場する男女は同棲しているのではないか、と、その昔、初めて聴いた時から勝手に想像してきた。今風に言うなら“事実婚”の男女だろうか。もし仮にこの曲に登場する男女が夫婦なら、“別れ”をテーマにした歌詞の内容がもっとドロドロとしているはずである。ところがこの曲は、愛する男性と心が離れてしまった悲しさを歌っているにしては、どこかカラッとしているのだ。
英語で“暇をつぶす”を意味するイディオムとして真っ先に頭に浮かぶのは“kill time”だが、(a)も似たような意味。但し、こちらは“(目的もなく)ただ単に時間をやり過ごす”といったような、投げやりな感じがする言い回しである。この曲の主人公である女性は、相手の男性と一緒に住んでいる部屋の中で、何をするでもなく“朝はずっとベッドの中でただただ時間をやり過ごし”ているのである。ここのフレーズだけでも、彼女の彼に対する愛情が冷めてしまっていることが何となく判ってしまう。
複数の意味を持つ口語的イディオムの(b)には、“回復する、修復する”という意味があり、この曲の中では、当然のことながら、“私と彼の関係を修復する”という意味で歌われている。互いに心が擦れ違い、その状態を修復しようと努めるも、結局はそのことが無理だと気付く。何故なら――
(c)のフレーズで、そのことが判然とするから。同曲フレーズにある“something”は、いかようにも解釈できる。“互いを思いやる気持ち”でもいいし、“愛し合っていた頃の熱い気持ち”でもいい。そして、その“something”が、(c)では“死に絶えた=跡形もなく消えてしまった”と歌われている。これでは、ヨリを戻すことなど不可能であろう。更に言えば、曲の主人公の女性は、相手の男性に対する愛情が冷めてしまったことを“もう隠してはおけない”と告白しているのだ。このふたりを待ち受けているのは、もはや別離という結果しかない。
(c)のように、“感情が死に絶える”という表現は、他の洋楽ナンバーには余り見当たらない。それほど、彼女の彼に対する思いがしぼんでしまっている、ということを表しているのだと思う。ここを“何かが死んでしまった”と直訳したのでは、味もそっけもない訳詞になってしまうし、情緒もへったくれもなくなってしまう。“die”には“火が消える、音や光などがかすかなものになっていく”という意味があることもお忘れなく。恐らく、1971年当時にキャロルの担当ディレクターだった方は、そこからヒントを得て「心の炎も消え」という素晴らしい邦題を思いついたのだろう。個人的な願望ながら、最近、彼女のデモ音源を集めた『THE LEGENDARY DEMOS』(「It’s Too Late」のデモ音源も収録)もリリースされたことだし、この際、「It’s Too Late」の邦題を昔のそれに戻してみては如何と思うのだが……。