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曲のエピソード
フランキー・ヴァリ(Frankie Valli)は、1960年代に多くのヒット曲を放ったヴォーカル・グループ、フォー・シーズンズ(The Four Seasons)のリード・ヴォーカリストだった人物。グループ活動のかたわらソロ活動も行っていたが、グループの中心人物であるフランキーがグループを脱退することを恐れたレーベル側が彼のソロ・ナンバー「Can’t Take My Eyes Off You(邦題:君の瞳に恋してる)」のプロモーションに全く協力せず、フランキーが自分自身でラジオ局を回ってシングル盤のサンプルの配布をしたという。オリジナル・ヴァージョンのリリース以来、現在にいたるまで複数のアーティストによってカヴァーされてきたが、日本で最も有名なのは、サンフランシスコ出身のディスコ・バンド、ボーイズ・タウン・ギャング(Boys Town Gang)のヴァージョン(1982)であろう。彼らによるヴァージョンは本国アメリカでは全くヒットしなかったが、ヨーロッパ各国と日本で大ヒットし、オランダのナショナル・チャートでは何とNo.1を獲得している。この曲をボーイズ・タウン・ギャングのヴァージョンで初めて知った、という日本人も多いことだろう。
なお、フランキーは今なお現役シンガーで、ライヴで観客から最も喝采を浴びるのは、もちろんこの曲である。
曲の要旨
まるでこの世のものとは思えないほど美しくて魅力的な君。そんな君に僕の目は釘付けだよ。もしかしたら君は幻なんじゃないかと思えるほどさ。君のような女性と出逢えて、僕はこうして生きていることを神様に感謝している。君が幻なんじゃなく、本当に実在する女性なら、それを証明してみせて欲しい。君を愛してる。君なしではいられない僕。そんな僕の気持ちを、どうか拒絶しないで…。
1967年の主な出来事
アメリカ: | デトロイトを始めとする数都市で大規模な黒人暴動が発生。 |
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日本: | 「オールナイトニッポン」の放送が開始され、ラジオの深夜放送の人気番組に。 |
世界: | Association of Southeast Asian Nations (ASEAN/東南アジア諸国連合)成立。 |
1967年の主なヒット曲
Penny Lane/ビートルズ
Groovin’/ヤング・ラスカルズ
Respect/アレサ・フランクリン
Light My Fire/ドアーズ
Daydream Believer/モンキーズ
Can’t Take My Eyes Off Youのキーワード&フレーズ
(a) too good to be ~
(b) can’t take my eyes off you
(c) bring someone (something) down
初っ端から私的なことを書くのは気が引けるが、この曲には忘れられない思い出がある。大学時代、愛用のライターが壊れてしまい、大学から徒歩数分の距離にあったライター専門店に修理に持ち込んだところ、店主の男性が「そんなに時間はかかりませんので、どうぞお待ちになっていて下さい」と言った。その間、狭い店内では、ボーイズ・タウン・ギャングの「君の瞳に恋してる」が永遠リピートで(!)流れ続けていたのである。最初は有線放送を流していると思ったのだが、いつまでもいつまでも同じ曲ばかり流れるので、思い余って修理中の店主に訊いてみた。「あのー、これ、有線放送じゃないんですか?」 店主「あ、これ? 僕、この曲が大好きで、カセット・テープの両面に全部この曲を録音してずっと店で流してるんですよ」――“耳にタコができる”というのは、ああいう時に使う言葉だろう。以降、ボーイズ・タウン・ギャングの「君の瞳に恋してる」をどこかで耳にするたびに、あの狭いライター専門店のことが鮮明に頭に思い浮かんでしまう。そして、思わず店主に言おうとして引っ込めた次の言葉も…。「これのオリジナル・ヴァージョンもすごくいいですよ」。が、お節介だと思って言うのはやめた。筆者は今でもフランキーのオリジナル・ヴァージョンが数あるうちでも最高の出来栄えだと思っている。
別にボーイズ・タウン・ギャングがディスコ調に仕立ててカヴァーしたから彼らのヴァージョンが苦手、というのではない。これは個人的な見識だが、この曲は男性が歌ってこそ歌詞の内容が映えると思うのだ(ちなみに、ボーイズ・タウン・ギャングの「君の瞳に恋してる」でリード・ヴォーカルを歌っているのは女性)。初めて耳にしたこの曲のヴァージョンが、たまたまフランキーのオリジナルだったため、余計にそう思うのかも知れないが、例えば、元フージーズのローリン・ヒルによるカヴァー(1998)も悪くはないものの、やはりこの歌詞は女性向じゃないな、と感じた記憶がある。
この歌詞は男性向き、と感じる根拠は、(a)が登場する最初のフレーズにある。直訳するなら「(君の存在が)現実であるにしては良過ぎる」。これではこの曲のムードがブチ壊しである。ここは、「この世のものとは思えないほど君は美し過ぎる(魅力的過ぎる)」ということを表現したフレーズだ。ここを、次のように言い換えてもいい。
●You’re just too beautiful to be real.
1980年代半ば~90年代初期にかけて人気を博した男性R&Bヴォーカル・グループ、フォース・M.D.ズ(Force M.D.’s)のヒット曲に「Are You Really Real?」(1990, R&BチャートNo.23)というのがあるが、同曲もまた、余りに魅力的過ぎる女性に対して、「君は本当に現実に存在しているの?(=もしかしたら幻じゃないの?)」と歌ったものだった。(a)と同じ意味を持つ表現は、どちらかと言えば男性シンガーや男性グループの歌詞に多いような気がする。と言うのも、過去に訳詞を手掛けてきた男性アーティストの歌詞に、(a)と同じ意味のフレーズが頻出していたから。“be too +褒め言葉の形容詞+to be true(またはreal)”は、男性から女性へ向けられた、最上級の賛美と言ってもいい。
タイトルの(b)には、れっきとしたイディオムの“take one’s eyes off ~(~から目を離す)”が含まれている。その行為を否定しているわけだから、タイトルを訳すと「(僕は)君から目を離すことができない」、意訳するなら「君の姿に目が釘付けだ」、「僕の目には君しか映らない」といったところか。面白いことに、数あるカヴァー・ヴァージョンでは、(a)のフレーズを“Can’t take my eyes off of you …”と、わざわざ“off + of”で歌っているアーティストも少なくない(例えば、フランキーのオリジナル・ヴァージョンと同じ年にリリースされた女性シンガーのヴィッキー・カー、アメリカを代表する人気ポップ・シンガーのアンディ・ウィリアムスによるカヴァーなど)。意味は同じである。中には、カヴァーなのに、勝手に曲のタイトルを「Can’t Take My Eyes Off Of You」と変えてあるものまで…。筆者には、“off + of”のフレーズが、どうしても屋上屋を架すようなクドい言い回しに聞こえてならない。だからなのか、正規のイディオム通りにきちんと歌っているフランキーのオリジナル・ヴァージョンがスッと耳に入ってくる。
洋楽ナンバーの歌詞でしょっちゅう見聞きする(c)は、これまたイディオムで、「~を落とす、~を下ろす」などのほか、「人を痛めつける、殺す」という物騒な意味もある。が、ここで歌われている(c)は、そのイディオムが持つ多くの意味のひとつである「~をガッカリさせる、~を意気消沈させる」として用いられている。また、(c)のイディオムがそのままタイトルに用いられている曲もあり、有名なところでは、アニマルズの「Don’t Bring Me Down」(1966, 全米No.12)、エレクトリック・ライト・オーケストラ(通称ELO)の「Don’t Bring Me Down」(1979, 全米No.4)。ただし、それらは同名異曲である。
この曲の主人公は、幻かと見紛うほど美しくて魅力的な女性を深く愛してしまい、「どうか僕の思いを無下に拒絶しないでくれ」と、祈るような気持ちを(c)で表現しているのだ。それほど、彼は一瞬たりとも彼女から目を離せない。「君の瞳に恋してる」は、明らかな誤訳による邦題だが、誤訳であることを忘れてしまうほど、この曲の雰囲気にピッタリと合う。仮にフランキー自身に、日本のタイトルは英語で“I’m in love with your eyes”というんだよ、と教えてあげたとしても、異論を唱えないのではないだろうか。