【発言者】友定賢治
第4回に引き続き,「キャラ助詞に似たものが方言にみられる」というのは,方言のどのような言い方がそれにあたるのかをみていきます。
まず,自称詞に由来するとされる「わ」「ばい」です。定延さんも本編第20回であげておられる,
(C-1) おしんこ ねーすかわ。(おしんこはありませんか 宮城県)〈3〉
終助詞の後ろに「わ」が位置するものです。このような「わ」が,〈2〉の資料では,宮城県宮城郡にまとまって見られます。(C-1)も宮城県松島町となっています。
次は,九州の「ばい」です。
(D-1) さけ だしまっしぇんなばい。(酒は出しませんよ。 福岡県)〈2〉 (D-2) うん からいもなら いっちょー もろーて いこかのばい。(はい,さつま芋ならひとつ貰って行こうかね。 佐賀県)〈2〉
やはり,終助詞「な」「かの」の後ろに位置しています。
次は,共通語では,その位置に「わ」は来ないと思われるものです。
(E-1) ありがと ござりまして わい。(ありがとうございます。 石川県)〈2〉
最後は,動詞の「言う」「思う」「見る」「来る」などが文末詞化しているもので,「言う」以外は,中国地方を中心に分布しています。特に,「見る」は岡山県,「来る」は島根県出雲地方に特徴的に見られるものです。これらが,上記のA~Eと同様のものなのか,まさに「さらに検討を進める」必要がありますが,ここでは,思い切ってあげておきます。
(F-1) はよー せーちや。(早くしなさいよ。 岡山県)〈1〉
「せーちや」は「せよと言えば」の変化した形です。
(F-2) かわしりにゃー じょーに とりますともい。(川尻にはたくさんとりますよ。 山口県)〈3〉
「ともい」は「と思え」だと考えられます。
(F-3) どーにも ならんとみー。(どうにもならないよ。岡山県)〈1〉 (F-4) おんせんにでも いかこい。(温泉にでも行こうよ。 島根県出雲地方)〈1〉
ただ,これらのうち,「思え」「見よ」は,敬語形もあり,完全に文法化しているとは言えないかもしれません。
(F-5) さるが なんと じゃーに おったとまっしゃい。(猿がなんとたくさんいたんですよ。 島根県出雲地方)〈3〉 (F-6) ほんに つまらんとみんしゃー。(ほんとにつまらないよ。 岡山県)〈1〉
「とまっしゃい」は,「~とおもわっしゃい」で尊敬の助動詞「しゃる」がついています。「みんしゃー」は「みなさい」です。
以上の6種類ですが,結局,「さらに検討を進める必要がある」を繰り返しただけという,まことに恥ずかしいことになってしまいました。