ネット座談会「ことばとキャラ」

第7回 友定 賢治さん

筆者:
2016年8月8日

【発言者】友定賢治

第4回に引き続き,「キャラ助詞に似たものが方言にみられる」というのは,方言のどのような言い方がそれにあたるのかをみていきます。

まず,自称詞に由来するとされる「わ」「ばい」です。定延さんも本編第20回であげておられる,

(C-1) おしんこ ねーすかわ。(おしんこはありませんか 宮城県)〈3〉

終助詞の後ろに「わ」が位置するものです。このような「わ」が,〈2〉の資料では,宮城県宮城郡にまとまって見られます。(C-1)も宮城県松島町となっています。

次は,九州の「ばい」です。

(D-1) さけ だしまっしぇんなばい。(酒は出しませんよ。 福岡県)〈2〉
(D-2) うん からいもなら いっちょー もろーて いこかのばい。(はい,さつま芋ならひとつ貰って行こうかね。 佐賀県)〈2〉

やはり,終助詞「な」「かの」の後ろに位置しています。

次は,共通語では,その位置に「わ」は来ないと思われるものです。

(E-1) ありがと ござりまして わい。(ありがとうございます。 石川県)〈2〉

最後は,動詞の「言う」「思う」「見る」「来る」などが文末詞化しているもので,「言う」以外は,中国地方を中心に分布しています。特に,「見る」は岡山県,「来る」は島根県出雲地方に特徴的に見られるものです。これらが,上記のA~Eと同様のものなのか,まさに「さらに検討を進める」必要がありますが,ここでは,思い切ってあげておきます。

(F-1) はよー せーちや。(早くしなさいよ。 岡山県)〈1〉

「せーちや」は「せよと言えば」の変化した形です。

(F-2) かわしりにゃー じょーに とりますともい。(川尻にはたくさんとりますよ。 山口県)〈3〉

「ともい」は「と思え」だと考えられます。

(F-3) どーにも ならんとみー。(どうにもならないよ。岡山県)〈1〉
(F-4) おんせんにでも いかこい。(温泉にでも行こうよ。 島根県出雲地方)〈1〉

ただ,これらのうち,「思え」「見よ」は,敬語形もあり,完全に文法化しているとは言えないかもしれません。

(F-5) さるが なんと じゃーに おったとまっしゃい。(猿がなんとたくさんいたんですよ。 島根県出雲地方)〈3〉
(F-6) ほんに つまらんとみんしゃー。(ほんとにつまらないよ。 岡山県)〈1〉

「とまっしゃい」は,「~とおもわっしゃい」で尊敬の助動詞「しゃる」がついています。「みんしゃー」は「みなさい」です。

以上の6種類ですが,結局,「さらに検討を進める必要がある」を繰り返しただけという,まことに恥ずかしいことになってしまいました。

筆者プロフィール

友定 賢治 ( ともさだ・けんじ)

県立広島大学名誉教授。専攻は日本語学,中でも,方言や子どものことばの研究。編著書に,『全国幼児語辞典』(東京堂,1997),『育児語彙の開く世界』(和泉書院,2005),『関西弁の広がりとコミュニケーションの行方』(陣内正敬と共編 和泉書院,2006),『県別罵詈雑言辞典』(真田信治と共編 東京堂,2011),『感動詞の言語学』(ひつじ書房,2015)などがある。

編集部から

新企画「ことばとキャラ」は,金田純平さん(国立民族学博物館),金水敏さん(大阪大学),宿利由希子さん(神戸大学院生),定延利之さん(神戸大学),瀬沼文彰さん(西武文理大学),友定賢治さん(県立広島大学),西田隆政さん(甲南女子大学),アンドレイ・ベケシュ(Andrej Bekeš)さん(リュブリャナ大学)の8人によるネット座談会。それぞれの「ことばとキャラ」研究の立場から,ざっくばらんにご発言いただきます。