人名用漢字の新字旧字の「曽」や「祷」の回を読んだ方々から、常用漢字でも人名用漢字でもない漢字を子供に名づけたいのだが、どうしたらいいのか、という相談を受けました。それがどれだけ大変なことかを知っていただくためにも、あえて逆説的に、「人名用漢字以外の漢字を子供の名づけに使う方法」を、全10回連載で書き記すことにいたします。
常用平易ではなく永年使用
前回(第9回)、名の変更許可では「永年使用」を実情として申立てる、と書きました。問題の漢字の「常用平易」ではなく、「永年使用」を申立てるのです。というのも、子の名ではなく、本人の名なのですから、戸籍法第50条ではなく第107条の2が適用されるのです。
第百七条の二 正当な事由によって名を変更しようとする者は、家庭裁判所の許可を得て、その旨を届け出なければならない。
この「正当な事由」の1つとして、「永年使用」が認められているのです(東京家庭裁判所昭和40年(家)第7435号・宮崎家庭裁判所昭和46年(家)第268号・名古屋高等裁判所昭和52年(ラ)第183号など)。
名の変更許可が認容された場合
認容された場合は、家庭裁判所に、審判書謄本の交付を申請します。申請するのは、もちろん子供本人です。審判書謄本が送られてきたら、子供本人が住所地の市役所(区役所・町役場・村役場)に出向いて、名の変更届と審判書謄本を提出します。ハンコを持っていくのを忘れないように。本籍地と住所地の市役所が違う場合は、戸籍謄本も必要です。市役所によっては、他にいくつか書類を書かなければならないかもしれませんが、これで、戸籍上に、本当の子供の名が記載されることになります。
名の変更許可が却下された場合
却下された場合は、次に取るべき方法には、いくつか選択肢があります。選択肢の1つは、高等裁判所への即時抗告を、家庭裁判所に申立てることです。即時抗告の申立ては、2週間以内に、子供本人がおこなわなければいけません。別の選択肢としては、5年ほど待って(つまりは子供の成人を待って)、家庭裁判所に再び、名の変更許可を申立てるやり方です。その際、別の家庭裁判所で名の変更許可を申立てるために、子供を事前に引越させておくというのも、可能な選択肢の1つでしょう。
あるいは、これらの選択肢のうち、複数を組み合わせるという方法もありえます。極端な話、次々に引越しながら、日本中の家庭裁判所を巡ったって、かまわないのです。常用漢字でも人名用漢字でもない漢字を、名の変更に許可するかどうかは、裁判官の間でも意見が分かれるところなのです。日本国内には家庭裁判所が50、支部が203、出張所が77もありますから、名の変更を許可してくれる裁判官に、いつか出会えるかもしれません。
まとめにかえて
ですが、第1回の冒頭でも書いたとおり、筆者個人は、やはり常用漢字と人名用漢字の範囲で出生届を書いてほしいのです。それ以外の漢字を子供の名づけに使うのは、あまりにも大きなリスクを伴います。最悪の場合、あなたの子供に、全国の家庭裁判所を放浪する一生を強いかねません。そうでなくても、戸籍上の名と本当の名が違っている間は、さまざまな点で不都合が生じます。それでもあなたは、子供の名づけにその漢字を使いたいのですか?