この三省堂の方言シリーズエッセイでは,方言を経済的に活用する試みをたどってきました。実例は100年近く前からありました。戦前の方言絵はがきの桜井コレクション(第242回「名古屋の方言絵はがき Dialect picture postcards of Nagoya」・第272回「方言絵はがき10万円 1000 dollars for dialect picture postcards」)が手に入り,インターネットで公開しました[注]。さらにその後もデータが増えました。大阪の絵はがきが圧倒的な多さです【図1】。
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戦後(2000年まで)の方言グッズ報告例は,グラフとして拙著に載せてあります。九州,近畿,中部,東北などで,国土の中央と辺縁で多く見つかりました。方言イメージで情的プラスの地域と一致します。
シリーズエッセイのエッセンスは,『魅せる方言』として刊行されました。索引から多くのことが読み取れます。県名(および旧国名)を地図にしてみました【図2】。ほぼすべての県から実例が集まりました。
つまり21世紀に入って,方言が日本全土で経済的に活用されるようになったわけです。方言そのもののイメージが全国で情的プラスに転じたと考えられます。
媒体も多様であることが分かりました。戦前・戦後は方言手ぬぐいのように観光客向けの買える方言が多かったのですが,平成になってからは,店名,施設名や方言メッセージのように買えない方言が目に付くようになりました。若者向けの娯楽ものが増えたことも注目されます。旅先で耳で方言を聞く機会が減ったのと反比例の形で,目で方言を見る機会が増えたわけです。
この方言シリーズエッセイは350回を迎えたところで休載になります。第1回の2008年6月から2016年3月まで8年間続きました。開始当初は,《5人で分担して,できれば全部を集める》という野望を持ちましたが,無謀でした。全国にこれほど多いと思いませんでした。またこの8年間に増え続けるとは予測できませんでした。
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[注]//www.urayasu.meikai.ac.jp/japanese/inoue/inouetop.htm