続 10分でわかるカタカナ語

第19回 ダイバーシティー

2017年7月15日

どういう意味?

「(人間の)多様性」という意味です。「ダイバーシティ」とも言います。

もう少し詳しく教えて

ダイバーシティー(diversity)はもと英語で、「多様性」を意味します。

英語の diversity のニュアンスは、類義語である variety(バラエティー)と比較することで理解できます。そもそも diversity も variety も「多様性」を意味しますが、variety は「同じ種類の中での違い」を強調する傾向があり、diversity は「そもそも種類が違うこと」を強調する傾向があるのです。カタカナ語のダイバーシティーも、そのニュアンスを引き継いでいます。

さてダイバーシティーという言葉は「人間の多様性」を表現する場面でよく登場します。具体的には性別・年齢・国籍・人種・宗教・性的指向・障害の有無などの多様性のことを指すのです。これは後述する「ダイバーシティーマネージメント(diversity management)」に関連しています。

どんな時に登場する言葉?

経営分野で頻出する言葉です。この分野で近年、「ダイバーシティーマネージメント」という新概念が注目されているからです。「多様な人材を活用する経営」をさす概念です。

このほか無線通信の分野にも「ダイバーシティー(diversity)」と呼ばれる技術手法があります。

どんな経緯でこの語を使うように?

もともと1960年代の米国で誕生したダイバーシティーマネージメントという概念が日本でも注目されるようになったのは2000年代以降のことです。2002年に当時の日経連(後の経団連)が『原点回帰―ダイバーシティ・マネジメントの方向性―』と題する報告書を発表。この報告書がダイバーシティーマネージメントの重要性を主張したことから、ダイバーシティーという言葉の使用も増えていきました。

無線通信用語のダイバーシティーは、これ以前から、専門用語として使われていたようです。

ダイバーシティーの使い方を実例で教えて!

「ダイバーシティーマネージメント」

多様な人材を活用する経営(マネージメント)のことです。「ダイバーシティー経営」とも言います。

ここでいう多様性とは、性別・年齢・国籍・人種・宗教・性的指向・障害の有無などの多様性のことです。したがってダイバーシティーマネージメントとは「性別・年齢・国籍・人種・宗教・性的指向・障害の有無などの多様な従業員を活用する経営手法」を意味するわけです。日本ではとりわけ「女性」人材の活用だけが注目されることも多い概念ですが、それは目標の一部に過ぎません。

多様な人材の活用は、企業・従業員の双方にとって有益です。まず企業にとっては「国際的なビジネス環境」や「変動の激しいビジネス環境」への対応力が増すメリットがあります。また従業員にとっては、自身の潜在的価値を最大限に活用する働き方が可能になるわけです。

日本政府もその推進に力を入れており、2012年から経済産業省が「ダイバーシティー経営企業100選」(2015年からは「新ダイバーシティー経営企業100選」)を選定しています。

ちなみに「ワークライフバランス(work-life balance)」(仕事と生活の両立)という概念も、ダイバーシティーマネージメント(特に女性人材の活用)を実現させる要素として注目された経緯があります。

無線の「ダイバーシティー」

無線通信分野では「ひとつの無線信号を複数のアンテナで受信したうえで、複数の受信信号をうまく選択・合成することで、信頼性の高い信号を確保する技術」をダイバーシティーと呼んでいます。この分野では慣習的に「ダイバーシチ」ということもあります。またこの技術を用いたアンテナ群を「ダイバーシティーアンテナ(diversity antenna)」といいます。携帯電話の基地局などで一般的に用いられている技術です。

生物多様性

多様性という言葉を聞いて「生物多様性」のことを思い出した人もいるのではないでしょうか。地球上に多様な種の生物がいること、同じ種の中にも多様な遺伝子があること、さらには多様な生態系があることを意味する言葉です。

このような多様性は人類にとっても有益な存在。例えば生物工学(バイオテクノロジー)の分野でも、多様性が新しい知見をもたらすことがあるのです。この多様性を保護する目的で「生物多様性条約」(1993年発効)などの国際的な取り組みも進んでいます。

さて、生物多様性を英語で表現すると biodiversity(「バイオダイバーシティー」)となります。この言葉もダイバーシティーの仲間ということになります。

言い換えたい場合は?

単純に言い換える場合は「多様性」が使えます。また人の多様性を表現する場合は「人間の多様性」「人材の多様性」などの表現も可能です。もっと詳しく「性別・年齢・国籍・人種・宗教・性的指向・障害の有無などの多様性」というように補足するのも良いでしょう。またダイバーシティーマネージメントは「多様な人材の活用」「多様な人材を活用する経営」「多様性を尊重する経営管理」などと言い換えることが可能です。

雑学・うんちく・トリビアを教えて!

お台場(だいば) 東京都江東区青海(あおみ)に『ダイバーシティ東京』と名付けられた複合商業施設/オフィスビルがあります。この場合のダイバーシティ(DiverCity)は多様性(diversity)と街(city)を組み合わせた造語。施設がある地域の名前「台場(だいば)」にもちなんでいるそうです。

筆者プロフィール

もり・ひろし & 三省堂編修所

新語ウォッチャー(フリーライター)。鳥取県出身。プログラマーを経て、新語・流行語の専門ライターとして活動。『現代用語の基礎知識』(自由国民社)の「流行観測」コーナーや、辞書の新語項目、各種雑誌・新聞・ウェブサイトなどの原稿執筆で活躍中。

編集部から

「インフラ」「アイデンティティー」「コンセプト」等々、わかっているようで、今ひとつ意味のわからないカタカナ語を詳しく解説し、カタカナ語に悩む多くの方々に人気を博したコンテンツ「10分でわかるカタカナ語」が、ふたたび帰ってきました。

「インテリジェンス」「ダイバーシティー」「エビデンス」など、日常生活の中で、新たなカタカナ語は引き続き、次々に生まれています。世の中の新しい物事は、カタカナ語となって現れてくると言っても過言ではありません。

これら悩ましいカタカナ語をわかりやすく考え、解説してゆきます。

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