三省堂国語辞典のすすめ

その6 大切なあのことば、復活しました。

筆者:
2008年3月12日

今回の『三省堂国語辞典 第六版』の帯には「現代(いま)を映し出す日本語を大増補!」と大きく書かれています。増補項目の多さは大きな特長です。「4,000語を追加」とありますが、実際はさらに何百語か超えます。類書の最近の改訂と比べても断然多いといえます。全体の項目は73,000以上、派生語などを含めれば、ほぼ8万語に達します。

初版は語数も少なめだったが…
【初版は語数も少なめだったが…】

増補項目の多くは、これまで辞書に載らなかったことばですが、中には、以前の版でいったん削られていた「復活組」のことばもあります。

『三国』は、もともと語数を多く載せる辞書ではありませんでした。今でも、いたずらに語数を増やせばいいという姿勢ではありませんが、当初は、小学校高学年から中学生の使用者をねらっていたためもあり、それに見合う語数にしていました。初版(1960年)の序文には「精選された見出し語五万七千」と記されています。

当時、一般によく使われていた小型辞書の代表は『明解国語辞典』でした。『三国』と同じく見坊豪紀(けんぼう・ひでとし)の編集による辞書です。『明解』の改訂版は66,000語を載せていましたが、『三国』は、ここからことばを大量に削り、新しいことばを増補して出来上がりました。

こういう経緯があるため、『三国』の古い版を見ると、必要なことばがなくて「あれっ」と思うことがあります。たとえば、『明解』にはあった「一揖(いちゆう)」は、『三国』の初版では削られました。また、「義挙」は、『三国』の初版には載っていましたが、第二版にはもうありません。硬いことば、昔ふうのことばなどが、かなり削られた模様です。

「一揖」も削られていた
【「一揖」も削られていた】
(左=明解改訂版・右=三国初版)

今回の改訂では、削られてしまったことばのうち重要語を、改めて追加しました。「逸聞」「家格」「佳句」「麾下(きか)」「降嫁」「悉皆(しっかい)」などもその例です。

むずかしいことばだけでなく、日常的なことばでも、削られていたものがあります。代表的な例が「雨降り」。『明解』にはあったのに、『三国』の初版ではなくなっています。「雨が降るから雨降りで、当たり前だ」というわけで、不採用になったのでしょうか。でも、北原白秋の童謡にもあり、情緒を感じさせる日本語です。第六版では復活しました。

「雨降り」も復活
【「雨降り」も復活】

難解に思われることば、取るに足りないようなことばの中にも、現代語としてよく使われ、無視できないものがたくさんあります。多くのことばが、第六版で返り咲いています。

筆者プロフィール

飯間 浩明 ( いいま・ひろあき)

早稲田大学非常勤講師。『三省堂国語辞典』編集委員。 早稲田大学文学研究科博士課程単位取得。専門は日本語学。古代から現代に至る日本語の語彙について研究を行う。NHK教育テレビ「わかる国語 読み書きのツボ」では番組委員として構成に関わる。著書に『遊ぶ日本語 不思議な日本語』(岩波書店)、『NHKわかる国語 読み書きのツボ』(監修・本文執筆、MCプレス)、『非論理的な人のための 論理的な文章の書き方入門』(ディスカヴァー21)がある。

URL:ことばをめぐるひとりごと(//www.asahi-net.or.jp/~QM4H-IIM/kotoba0.htm)

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編集部から

生活にぴったり寄りそう現代語辞典として定評のある『三省堂国語辞典 第六版』が発売され(※現在は第七版が発売中)、各方面のメディアで取り上げていただいております。その魅力をもっとお伝えしたい、そういう思いから、編集委員の飯間先生に「『三省堂国語辞典』のすすめ」というテーマで書いていただいております。