クラウン独和辞典―編集こぼれ話―(1)
2008年 3月 17日 月曜日 筆者: 信岡 資生【編集部から】
このたび『クラウン独和辞典』(第4版)が刊行されました。日本初、「新正書法」を本格的に取り入れた独和辞典です。編修委員の先生方に、ドイツ語学習やこの辞典に関するさまざまなエピソードを綴っていただきます。
訳語を易しく
『クラウン独和第4版』の校正中のこと、回ってきたゲラを見ると、mit äußerster Konsequenz の訳語「いっさい右顧左眄(うこさべん)することなく」にアンダーラインが引かれて、この表現は若い人には難しいから易しい言葉に変えては?と記してある。うーむ、そうかなあ ― 試しに『新明解国語辞典第六版』で「うこさべん」を引いてみると ⇒さこうべん となっているので、あらためて「さこうべん」を引き直すと「世間の評判や思惑などを気にして、意見態度を決めかねること。右顧左眄」とある。『大辞林第三版』では「うこさべん」「さこうべん」の両方が見出し語にあるが、「さこうべん 左顧右眄」のほうに出典として三国魏の詩人曹植の「与呉季重書」より、「左をふりむき右を流し目で見るの意から」とあり、『全訳漢辞海第二版』でも「右顧左眄」は見出しだけで、⇒左顧右眄となっているので、やっぱり「左顧右眄」のほうが由緒正しいようだと知る。いずれにしても、漢学の素養がさほど重んじられなくなった今日では、こうした表現が若い世代も含めて一般の人には理解が困難になっている事実に変わりはない。ゲーテは「外国語を知らない者は自国語についての弁えがまるでない」と言ったというし、独和辞典を引いて「左顧右眄」という国語をあらためて認識するのもまたその効用の一つではないかとも考えたが、しかし初版以来高度の水準と同時に易しい解説を編集の基本方針とし、その定評を勝ち得てきたクラウン独和辞典としては、大方の利用者の目線に立って、訳語が語意の理解の妨げになることを避けて、ここは「ひたむきに目標を追求する」と訳語を改めることにした。他にも若手の校正協力者の意見を入れて、「あたらチャンスを逃す」(eine Gelegenheit ungenutzt vorbeigehen lassen)⇒「せっかくのチャンスを逃す」;「… 前途遼遠だ」(Bis dahin fließt noch viel Wasser den Berg hinunter.) ⇒「… 長くかかりそうだ」;「大兵肥満の人」(Koloss)⇒「太った大男」;「人跡未踏の、人跡まれな」(unbetreten)⇒「人がまだ足を踏み入れて(通って)いない、人跡未踏の」などと改めた。
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【筆者プロフィール】
信岡 資生(のぶおか・よりお)
成城大学名誉教授
専門は独和・和独辞典史
『クラウン独和辞典第4版』編修主幹














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